第363話『半グレに拉致られそうなヤーさんを助けてみた!!』
「おらおらおらあ!」
コージが左手に持った木刀でタクシーのフロントガラスをぶったたく。単車の数は四台。二人乗りはしてない。宮部が指名した四人の少数精鋭。新藤、コージ、冴羽、エコ。
「『半グレに拉致られそうなヤーさんを助けてみた!!』いくぞぉ!」
新藤の単車がタクシーの前に出る。
「あ、危ない!」
そう言ってブレーキを踏むタクシーの運転手。
「おい。なに減速してんの。高速でブレーキ踏むバカがいるのかよ。スピード出せ」
「そう言われましても…」
減速したタクシーへここぞとばかりに攻撃を加える『藻府藻府』。エコが単車をタクシーにピッタリとくっつけてガンガン蹴りつける。ハンドルが持っていかれないよう両手でしっかりと強く握りながら、運転に集中しながら攻撃も集中させる。
「Pa・yウォーズ!!PayPayうぉーず!よ!ね!うぉーず!よねよねうぉーず!」
冴羽が奇声を発しながら左手に持ったスパナでタクシーのガラスを砕く。
「前が!前が見えません!」
『藻府藻府』の攻撃で窓がヒビだらけになりまともに運転が出来ないほど視界を失ったタクシーの運転手が叫ぶ。
「おらあああ!」
ガンッ!ガンッ!ガンッ!
助手席にいた伊勢がタクシーのフロントガラスを拳で叩き割り視界を作る。
「ほれ。これでよーく見えんだろ。ひけ。ガキどもをひき殺せや!」
「そう言われましても…!」
「ガキどもをひき殺さねえとお前の未来はねえ!それともなにか!俺が先にてめえを叩き落としてやろうか!!」
後部座席の間宮がタバコを取り出して咥える。落ち着いたままそれに火を点けて大きく煙を吐き出す。
「ははっ。こりゃいいや。煙が車内にこもんねえじゃん」
「間宮ぁぁぁぁぁぁぁぁ!死ねやあああああああああ!」
コージが木刀での会心の一撃を間宮の座席のガラス窓へぶち込む。連打!連撃!それを見ながら間宮がタクシーの運転手へ質問する。
「ねえ。運ちゃん。タクシーのドアって自分で開けられんの?」
「はい?」
「二度言わせんでくださいよ。タクシーのドアは自分で開けられんのかって聞いてんだろ」
「はい!え?」
タクシーの運転手の返事が終わらぬ間に間宮が思い切り後部座席のドアを蹴る。上半身を持っていかれないよう少しだけ力を入れてドアを開き、後は車内から思い切りドアを蹴る。異変に気付きとっさにそれをかわすコージ。
「んの野郎ぉ…!人を殺す気か!殺すぞ!」
そう言って再度タクシーに接近するコージ。間宮は本能で足に忍ばせていた短い木刀を取り出す。
「ねえ、運ちゃん。バイクって四輪と違って便利だよなあ。すり抜けも出来るし、加速もいいし、何より渋滞知らずだ。けどね、弱点があんの知ってる?」
「おらあ。運転に集中。質問に答えるのにも集中。さっさとひけ。ひき殺せ」
伊勢がプレッシャーをかける。関谷は黙って事の成り行きを見守る。タバコを咥えたまま間宮が続ける。伊勢もタバコを取り出して吸う。
「はっは。おめえの言う通りだわ。こりゃあ禁煙車でも吸えるなあ。煙がこもんねえ。おい運転手。お前、今度からこれで走れ。タバコ吸い放題だと喫煙者が殺到するぞ。商売上手だなあ」
「は、はい…」
その返事を聞いた瞬間、間宮が運転手の背もたれを思い切り蹴る。
ガンッ!
「俺の質問は放置っすか。バイクの弱点だよ。弱点」
「すいません!」
「いや、吸えるから。吸い放題だぜ。空気清浄機もいらねえよ。毎日忘れずにフィルターを取り換える必要もねえ。プロレタリアだよ。プロレタリア」
運転手にいちいち絡む伊勢。
「それは…、二輪と四輪では安全性が違います…」
「それも正解かあ。じゃあもう一つの正解を実戦でやろうかあ」
暴走族を力尽くで止める時、警察は『あること』を平気でやってくる。それは特殊警棒を走っているバイクの前輪目掛けて投げることである。ヘルメットを着用していないのを承知でそれをやる。意図的に。そして警察にとって運が良ければ、バイクを運転しているものにとって運が悪ければその警棒は回転している前輪に突き刺さる。そうなると急ブレーキとは比較にならない無茶で強引な急ブレーキが前輪にかかる。加速状態で前輪が回転を急に止めるとどんなに重いバイクだろうと逆ウィリーをかますことになる。運転者も当然、加速状態でバイクから放り投げられ、ノーヘル状態で頭から固いアスファルトに叩きつけられることになる。間宮はそれを狙っていた。警棒ではなく短い木刀で。決して真っすぐではなく揺れながら走るバランスの悪い、目線もぶれる車内からタバコを咥えたまま集中する間宮。集中力を極限まで高める間宮。
「たーげっとおん」
間宮が木刀を握った右手を振り下ろす。
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