第350話8時だよ!2,3人集合ぉ!

「んだよー。宮部。急に集合って。長谷部が退院するまで集合はナシじゃねえの?」


 宮部の号令でいつもの集会場所に集まる長谷部以外の十代目『藻府藻府』メンバー。田所と飯塚とたなりんもここにはいない。


「たなりんは呼んでねえの?来てないじゃん」


「うるせえ!俺が集合をかけたんだからそういうことだ!」


「そうだぜ。頭の宮部が意味なく集合かけるわけねえのは知ってるだろ。ここは黙って聞こうぜ。長谷部の返しはまだ途中だと俺は思ってるし」


「けどよお…、新藤」


「またケンカじゃねえのか。いいじゃねえか」


「だから長谷部がもうすぐ戻ってくるからそれからでも」


「コージ」


「分かったよ。新藤」


「ホントにホントにホントにホントにラ・イ・ド・ン・ターイム!」


「冴羽もちょっと黙れ」


「うるせえ!いいから聞けえ!」


 いつになく気合の入った宮部が荒くれものたちを相手に怒鳴る。


「で。ラインじゃなく集合してまでってことはよっぽど大事なことなんだろ。聞こうぜ」


 副総長の新藤の言葉に従うメンバーたち。そして。


「お前ら。ネタを出せ」


「え?」


「だーかーらー、ユーチューブで受けそうなネタだよ。受けそうなネタ!」


「はあ?」


 真剣で気合の入った宮部の口から予想外の言葉が出たことにズッコケそうになる十代目『藻府藻府』メンバーと副総長の新藤。


「おい…。宮部…。そういうのだったら余計たなりんや飯塚さんを呼んだ方が」


「ネタ?うーん」


 これは宮部の「ちくしょう!たなりんは悔しいけど面白そうなアイデアをポンポン出しやがる!このままでは俺は『組チューバー』のお荷物になってしまう!しかも『給料』も出すって飯塚さんは言ってたし…。そうだ!俺には『藻府藻府』というブレーンがいるじゃないか!みんなで考えればいいアイデアが出るんじゃないか!?否、出るだろう!それで臨時収入が入れば…。欲しかった中華フィギュアも好きなだけ…。いやホンモノが欲しいけど今の中華フィギュアって安いんだよなあ…。箱と多少のクオリティに目をつぶれば…。クラファンの海外ゲーミングパソコンも正規日本代理店が増えてきたからそれも欲しいし買えるかも…」という姑息でらしくない考えからであった。


「だからよお。俺も田所さんや飯塚さんの手伝いをしてるじゃねえの。受けそうなネタを考えるのが一番大変なわけよ。だったら猫の手も百人寄ればって言うだろ」


「宮部ぇ…。猫の手と百人寄ればがごちゃになってるぜ」


「うるせえ!お前は国語教師か!オホン。これはリーダー命令だ。お前らもケンカやバイク以外に得意分野はあんだろ。それを出せってことだよ」


「職権乱用だ!おいおい!新藤!宮部の暴走を許していいのか!」


「そうだぜ!江戸川どもをぶったたいたけど、まだ『模索模索』は他にも残ってるんだろ。一人残らずぶったたこうぜ!」


「だから最後まで聞けえ!いいかお前ら。いいアイデアを出したものには『金』が出る」


「え?」


「マジ?」


「ホントか!?」


 全員中卒で昼間は働いている『藻府藻府」メンバー。金は欲しい。


「ああ、ホントだ。飯塚さんと田所さんがスポンサーだ。飯塚さんがハッキリと『いいアイデアには金を出す』って約束してくれたぜ」


「マジ!?」


「でもよお。いいアイデアの定義ってなんだよ」


「だな」


「ばっきゃろー。いいアイデアの定義は一つだけだ。『採用されればいいアイデア』ってことだ」


「なるほど…」


「で?いくらくれんの?」


 二ちゃんが冷静に肝心なことを聞く。宮部が聞かれたくないことを聞く。


「だな。その辺もしっかり決めとかねえと。ホームラン級のアイデアで千円貰っても割に合わねえよ」


「だぜ」


「イッキ!イッキ!イッキなりステーキ!」


「うるせえよ。冴羽」


「聞けえ!その辺は飯塚さんと交渉中だ。ユーチューブなんだから出来高が一番分かりやすいだろ。再生回数に応じて『永久に』報酬が発生するでいいだろ」


「え!?『永久に』?」


「そうだ。ユーチューブってのは再生され続ければそれだけいつまでも金が入ってくんだよ」


「おおおおお!それはでけえ!」


「だったら考えろお!アイデアを出せえ!ネタを出せえ!」


 宮部の暴走は始まったばかりであった。しかしこれが意外に好転する。




 カタカタカタカタ。


「田所のあんさん…」


「どうしたっすか?飯塚ちゃん。いつもとなんか雰囲気が違いますね」


 二人で作業中の田所と飯塚。飯塚が心の中を田所にさらけ出す。


「実はいろいろありまして…」


 飯塚が解決しないけど誰かに聞いて欲しい、聞いてもらうだけで少しは楽になる話を始める。

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