第351話関係ないね

「なるほどですね。つーか、あの世良さんが間宮にですか…」


「ええ。それで義経君がいろいろとしょい込んでるみたいでして」


「自分が声を出したから、その声を聞いた兄貴の方が隙を見せたと。まあ誰も悪くないっすけどね」


「そうなんです。僕自身、世良さんから弟を頼むと言われてましたから」


「で。飯塚ちゃんはその世良さんをボコにした間宮には敵わないから白旗っすか」


「そんなこと一ミリも考えませんよ」


「だったらそれでいいんじゃないっすか」


「まあ…」


「うちに学ってのがいるじゃないですか」


「山田さんですよね」


「そうです。組では健司と達志の上です。世代的にあの辺が同じなんすよね。学が二十一で健司と達志が二十歳かな。自分の方が世良さんとは世代が近いんすが組に入るまであんまり絡みはなかったんすよ。その代わりと言っちゃあなんですが学や健司、達志は組に入る前に世良さんとはいろいろあったみたいっすね」


「そうなんですか」


「ええ。健司がまだ『藻府藻府』の兵隊だった頃にぶつかったような…」


「え?マジですか!?」


「まあツッパってたらぶつかる可能性は高いですからね。ちなみに自分は組に入るのが早かったんで」


「へえ…」


「だから世良さんの武勇伝って金とか成り上がりの方がイメージ強いんすよ。自分には。でも学や健司や達志は別みたいですね。腕っぷしも相当だったと聞いてますんで」


「まあ…、弟の義経君も相当ですからね」


「でも世良『兄弟』って話は聞かないんですよね。まあ、年が離れてるっ『ちゃあ~』離れてますし。近いっ『ちゃあ~』近いし。『ちゃあ~』」


 田所の最近のお気に入りである『ちゃあ~』をスルーする飯塚。


「彼は『少し一人で考える時間が欲しい』って言ってましたけど。間宮は彼にとって大切なツレであって。世良さんからは僕やたなりん色の染まれと、まあ、間宮と一緒にいたら将来的にも危険なのは誰が見ても分かりますし。でも当事者がそう言われて『分かりました』と簡単に納得できる話でもないですから。でも現実として僕らとも結構仲良くやれてたんですよね。宮部っちとはまあアレですけど。たなりんとは間宮にも負けないぐらい意気投合しちゃって。そもそも義経君も『単純な腕っぷしの強さ』にはあんまり興味がないみたいで。自分が面白いと思った人間に興味を示すタイプみたいでして。まあみんなそうなんでしょうけど。僕もほとんど年は離れてませんがいろいろ考えることや思うところもありまして」


「なるほど…」


「僕としては無理にどちらかを選ばなくてもいいんじゃないかって選択もアリだと思うんですよねえ」


「でもそれだと世良の兄貴の方の約束を破ってしまうと」


「そこなんですよ。どっちつかずだと」


「どっちつかずのアイウォンチューだと」


「田所のあんさん…」


「ごめんなさい。ごめんなさい。あんまり暗くならないようにと。続けてください。どーぞー」


「…まあ。少なくとも今急いでどちらかを選ばなくてもいいんじゃないかってことです。彼が間宮を選んだとしても僕は彼のことを友達だと思うことは変わらないと思いますし。彼がそれで今まで通り僕やたなりんたちと仲良くできればそれでいいと思ってますし。たなりんもきっと同じように考えてると思いますし」


「でも間宮とウチがぶつかれば両方にいい顔は出来ません。それが現実っす」


「そこなんですよねえ…」


 そこで田所が飯塚の部屋を汚さないよう気をつけながらタバコを咥えて火を点ける。そして。


「そんな難しい話ですかね。自分にはもっと単純な話に見えますけどね」


「そりゃあ田所のあんさんとかは強いから。間宮をぶっ飛ばせばいい話って考えちゃうんでしょうけど…」


「違いますよー」


「え?」


「飯塚ちゃんが間宮も飯塚ちゃんの色に染めればそれで終わる話じゃないっすか」


「ぼ、僕が!?」


「そうっす。飯塚ちゃんは気付いてませんが自分もそうですが、世良の兄貴の方、それに弟の義経君もそう。宮部君にしても同じ。たなりん君もある意味そう。十代目『藻府藻府』の彼らもそう。うちのおやじもカシラも言ってたそうです。まったく同じことを」


 灰皿に灰をトントン落としながら田所が言う。言葉の続きを待つ飯塚。


「飯塚ちゃんは主役になれる人間なんすよ。あの間宮でさえも飯塚ちゃんに一目置いてます。今は計算して上手に立ち回る人間が多いじゃないですか。堅気さんの世界でも悪党どもの世界でもそれは同じです。そういう簡単に透けて見える裏が飯塚ちゃんからは見えない。見えるはずがない。だってないからですよ。ないものは見えないでしょ」


「僕がそんな…。だって底辺ユーチューバーですよ。僕は」


「関係ないね」


 田所が危なーい刑事さんの口癖を真似るが世代ではない飯塚には伝わらない。


「でもホントに過大評価し過ぎですよ。僕はたんなる…」


「あながちそういうもんって本人は気付いてないもんですよ。気付いてたら計算が入りますから。その場にいない仲のいい人間を悪く言われたら本気で怒るタイプの人間って今は本当に見なくなりましたから。そういうのを自分らはおやじから教わってる途中ですからね」




 一方その頃。


「いいかお前ら!この件は先代の京山さんの総意でもある!ネタを出せと!」


 宮部の暴走は加速していた。

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