第334話私立聖クリクリ学園

 世良兄が目覚める。携帯を切っている間は時間に拘束されないを自分で決めている。だから目覚まし時計などの概念はない。自分が目が覚めるまでひたすら眠る。そして二度寝もしない。目が覚めるとすぐにタバコを咥える。


(二日前に朝から角田に電話して『肉球会』の事務所へ…。そして夜には『身二舞鵜須組』の小泉と…。それから事務所に戻って中山を見ながら翌日にまた『肉球会』の事務所…。帰宅したのが夜の十時過ぎ…。今は外が明るい。時計は十一時。午前中か)


 そしてキッチンの冷蔵庫を開けてペットボトルのアイスコーヒーをそのまま口へ運ぶ。それから二本目のタバコに火を点け、ソファーに移動しながら大画面のテレビの電源をリモコンで点ける。CSの音楽チャンネルが懐かしい洋楽のPVを流す。別にテレビが見たいわけではない。部屋の静けさを紛らわすためである。AIスピーカーも売っているがああいうものは誰がどの曲をどの時間にどれだけ聴いたかの情報をすべて集められている。そういうのが嫌いで使わない。そして携帯の電源を入れる。留守電をチェックする。ゼロ件。ラインをチェック。ラインは複数アカウントを使い分けているうえ、おともだちも少ないためこちらもゼロ件。ちなみに鬱陶しいけど興味のあるライン@は捨てアカウントで登録する。気が向けば見る。仕事用のメールはスマホでは見ない。事務所のパソコンで見る。そしてアイスコーヒーとタバコのセットで暫く考える。考えごとの邪魔にならないよう洋楽のPVである。


(間宮を潰すには…、『裸』にするしかない。下の人間もすべて剥ぎ取って金を断つ。収入減もすべて断つ。ヤクザにとって利用価値がなくなれば奴の存在価値もゼロになる。そうするには『身二舞鵜須組』、『蜜気魔薄組』は『肉球会』に抑えてもらう。奴のシノギは金持ちへの『タカリ』がメイン。『オレオレ』の話も聞くがあれは『蜜気魔薄組』のフロントだろ?それで先代の若林がぶち込まれたはず。『違法デリ』に『ぼったくり』、他に太いシノギがあるのか?そもそも半グレのシノギで三千万も…。あり得ねえ。うちの今の月の純利が五千万。ボーナス月でも六千いかないぐらい。これは急ぐ案件だがもう少し調べてみるか…)


 そして準備を済ませ、すぐに自宅を出る。車で『タピオカ』の事務所へ向かう。目的は中山忍である。あいつに聞くのが一番手っ取り早く確実である。




(はあ…、昨日はまさかあんなところで憧れの『藻府藻府』十代目総長・宮部様と会えるなんて…。夢のようだわ…。しかもラインまで交換しちゃった…。くぅーーーーーーーー!これってヤバくない!?絶対『運命』だわ!はあーはあーはあー、ヤバい…、昨日からムラムラが収まんねえ…。『真・七つ目の大罪』のブルーレイと合わさってヤバいわ…。オナってくればよかった…)


「彩音さん!」


「な?おま、急にデカい声で人を呼ぶなあ!しかもどこから現れたんだあ!お前は!」


「すいません!彩音さんは今の時間、いつもここだと思いまして」


 私立聖クリクリ学園の屋上で電子タバコをコーラ味で吸っていた彩音がもう一人の制服を着た女の子をどやしつける。


「そうだよお!ここはあたしのテリトリーなんだから勝手に入ってくんなあ!」


「て、てりとりーですか?」


「そうだよお!んで?なんだよお。用事があるから来たんだろ?」


「はい!八重子が三年の連中に呼び出しくらいまして」


「ああ?三年の連中が八重子を呼び出したあ!?どこよ!?案内しな!」


「はい!校舎裏です!ちょうど今、八重子が呼び出された時間です。八重子の奴、彩音さんには言うなって。一人で行くからって。でも」


「よく知らせてくれたあ!まーだ三年のメス豚ゴリラどもはあたしのことを分かってねえのかあ!行くよ。里美!」


「はい!」


 たなりんが『マジ恋五秒前』でフォーリンラブした彩音ちゃんは女子高で二年生にして校内最強と恐れられるヤンキーであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る