第320話マジ恋五秒前

「さあー到着なりよ!飯塚さんの兄者!末弟の宮部っち!ゆくでござるよ!ちなみに予算はそれぞれいくら持ってきたなりか?」


「あ、三万ほどです」


「俺もそれぐらい」


「いやあ、たなりんは金欠で二万ほどなりよ。まあお目当ての『真・七つ目の大罪』無修正バージョンブルーレイは確か…」


「あ、五千九百八十円だったよ。確か」


「てか〇〇屋ってたまーにお宝入りますよね。しかも格安で。ネット販売してないんですかね。てかよくその情報掴みましたね」


「いやー、運が良かったよ。実は〇〇屋のツイッターアカウントをフォローしてたんだよねえー」


「へえー。あれ?〇〇屋のツイッターアカウントってこれですか?フォロワー百ちょいの」


「そうそう。それそれ」


「うおおおおおおお!ホントなり!〇〇屋のアカウントなり!しかも直近のツイートで『真・七つ目の大罪!無修正バージョンブルーレイ入荷!五千九百八十円』の画像入りなり!あ、ファボが二つ…。ライバルが他にいるなり…」


「〇〇屋は電話もないし。ツイッターもフォローしないんだよね。だからDMも送れないし。こうやって急いで足を運ぶしかないんだよね」


 最寄駅から〇〇屋を目指してテクテク歩く三兄弟。ちなみに『〇〇屋』は伏せ字でもなく本当に『○○屋』と言う名前である。


「でもまあ〇〇屋ってお宝多いじゃん」


「ですよねえ。だから今日は多めに持ってきたんですよ」


「うう…、たなりんは二万なりよ。これで奇跡的に『雲雀たんおケツフィギュア』があったとして…。それでもブルーレイと合わせて一万円…。これで奇跡的に『対まん忍あさみ』のマウスパッドがあれば…。二人ともお金貸すなりよ…」


「まあまあたなりん。落ち着いて。今は『真・七つ目の大罪無修正バージョンブルーレイ』をゲットすることだけを考えようよ」


「そうだぜ。俺らからカツアゲしてまでとか考えちゃあダメだぜ。オタクの陥るパターン。『あれもこれも病』。そりゃ欲しい気持ちは分かるけどよ」


「宮部っち!宮部っちは『すがる屋』の通販で『お気に入りリスト』に入れてた商品がある日突然『申し訳ございません。この商品は品切れ中です』となり『入荷待ちリストへボタン』が表示される気持ちが分かるなりか!?」


「分かるよたなりん」


「それって『あるある』だよ。たなりん」


 そして段々と早足になるたなりん。意外と駅から近いようで歩くとそこそこかかる〇〇屋。そして〇〇屋の看板が見えてきたら完全にダッシュするたなりん。それを追いかける飯塚と宮部。


「おい!待てよ!」


「遅いなり!遅いものは置いてくなり!」


「ははは。たなりんが元気になってよかったじゃん」


 そう言いながらダッシュをやめる飯塚。


「そうですね」


 宮部も歩きに変更する。そして。たなりんが○○屋に到着する寸前、バイクが○○屋の前で停まる。異変に気付く飯塚と宮部は急いでたなりんの元へと再度ダッシュする。


「あ!たなりんじゃんか!」


「つねりん!ま、ま、まさか!ここに来るとは…!ひょっとして!」


「え?もしかしてたなりんも『真・七つ目の大罪』無修正バージョンブルーレイ目当て?」


 そして二人の元に到着する飯塚と宮部。


「あれ?義経君。なんで〇〇屋に…、ああああああああ!」


「世良ぁ!頼む!ここはたなりんに譲ってやってくれえ!漢・宮部の一生のお願いだ!」


「おいおい。飯塚さんに宮部っちセンパイまで。え?今日は三人で?」


「そうだよ。いつもこの三人で活動してるんで」


「飯塚さん。活動って…。まあ間違ってはいませんが…。それより〇〇屋のアカウントにファボを押したのは世良なの?」


「いや。まあアカウントはフォローしてるけど。ファボなんか押したら逆に競争になるじゃん」


「だよなあ…」


「…。ごめん。押しました。一人は僕です…」


「飯塚さん!」


「まあ、たなりんには前回『あるらきゅうへいあおい』を譲ってもらった借りもあるし。ブルーレイは焼いてもらえば…」


「世良ぁ!商品の無断複製は違法だろう!ルールは守れぇ!ルールは!この良心的価格を見て何も思わないのか!商売抜きだぞ!お前みたいなのがみんなそう言う考えだと商品の値段が今後はもっともっと高くなるんだぞ!」


「まあ、その通りだな…。宮部っちセンパイ…。分かった。じゃあたなりんに借りる!これならいいだろ」


「ああ。最初からそう言えよ」


「ちなみに宮部っちセンパイも借りるんすか?」


「俺はチャンネルに加入してっからいつでも見れんだよ」


「飯塚さんは?」


「義経君。仲間だね!」


「そうですね!月々高額なお金を払ってワンランク上のアニメ専門チャンネルを観れる宮部っちセンパイは貴族っすね。僕ら庶民はこうやって分け合って生きてゆきましょうよ。これからも」


 そう言いながら宮部抜きの三人で〇〇屋へ入っていくたなりんウィズ飯塚と義経。


「待てえー!俺をハブにすんなあ!」


 一人遅れて○○屋へ入る宮部。


「あ…」


 そこには一人の女の子が。手には『七つ目の大罪』無修正バージョンブルーレイが。固まるたなりん。そして予想外の展開に同じく固まる飯塚と義経。遅れて店に入った宮部も異変に気付く。そこで。


「なに人のことジロジロ見てんだよー!」


「あ、いや…。その…」


 たなりんの脳内では『マジ恋五秒前』が流れていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る