第321話虎が猫になる
「あのお…、すいません」
飯塚が代表して声をかける。
「あ?何だ?ナンパにのるほどこちとら安くねえぞ。お?」
え?ヤンキー系の方ですか?と思う飯塚。と、同時に、いやいや!ナンパとかじゃありません!誤解です!と思う飯塚。そこで義経が。
「元気のいいお姉さんですねえ。ナンパとかじゃあないんで落ち着いてお話を聞いてもらえませんかね?」
「あ?てめえらとは初対面だろ。気安く声かけてんじゃねえよ」
「(ダメですね。飯塚さん。この女、聞く耳持ってくれないみたいです。僕じゃあ怖くて怖くて)」
「(ま、まあ。こっちは男四人だし。警戒するのも無理はないよね…。でも、たなりんの為にもここは…)」
「おい。男がこそこそ小声でくっちゃべってんじゃねえよ。言いたいことがあんならてめえの口でそのまま言えばいいだろうが」
「(これはお話を聞いてくれるって解釈でいいんですかね?)」
「(ま、まあ。言いたいことがあんなら僕らの口で言えとおっしゃってますんで)」
「なあーにうだうだやってんすか。世良もそんなキャラか。どけどけ。おい、そのあんたが手に持ってる『七つ目の大罪』無修正バージョンブルーレイの件でお願いがあんだけど話だけでも聞いてくれよ」
ヒソヒソ話していた飯塚と義経の間をかき分け宮部が女の子に話しかける。
「何?このブルーレイ?もしかしてあんたたちもこの『七つ目の大罪』無修正バージョンブルーレイ目当て?そりゃあ残念。早い者勝ちでしょ」
「あんたの言う通りだと思うよ。俺が逆の立場でも譲らんと思うし」
「だったら諦めな。話が早い」
「まあ待てよ。お姉ちゃん。その『七つ目の大罪』無修正バージョンブルーレイは海外バージョンでもあるんだよね。パッケージを見れば分かる」
そこで手にした『七つ目の大罪』無修正バージョンブルーレイをよく見る女の子。
「あ、マジだわ…。タイトルも英語表記だし、パッケージ裏も全部英語だわ」
「それに『七つ目の大罪』無修正バージョンブルーレイ国内版は特典が付いているはず。それが付いてない時点で海外版なのはすぐに分かる」
「で。それがなんなの?別に作品が変わる訳じゃないし。海外版だからこの値段じゃないの。それに特典なしだろうと私はハナから円盤目当てだから譲る理由にはならねえよ」
「まあ最後まで聞けって。海外版『七つ目の大罪』無修正バージョンブルーレイはディスク四枚組でな。そのうちの二枚がブルーレイ。そして残りの二枚がDVDなんだわ」
「へ?」
「つまりブルーレイで観たい人はブルーレイで、DVDでしか観れる環境がない人はDVDでって各二枚ずつ入ってるんですね。しかも内容は一緒です。ブルーレイ版二枚かDVD版二枚のどちらかを持っていれば中身は全話観れるんですよね」
「ふーん。あ、ホントだ…。裏に書いてあるわ。両方エピソード12って。でもブルーレイ版の方にす、す、すぺしゃる、ふえあつれず…って」
「『スペシャルフィーチャーズ』な」
「う、う、うるせえ!てめえは英語教師かあああああ!」
「いや、ファンとしては正しい知識をですね…」
「それは分かるけど言い方ってのがあんでしょうが!」
「はい。すいませんでした」
おお、宮部っちが押されながらも頑張ってる!と思う飯塚。と、同時に、頑張れ!ジンギスカンならもう少しで『オルド』だ!と思う飯塚。
「で。話ってのは同じ中身ならどっちかを譲って欲しいってことか」
「はい。もちろんお金はこちらが全額お支払いします。パッケージもそちらにお譲りします。中身のブルーレイかDVDのどちらか二枚を譲って貰えませんでしょうか?」
「ふーん。ファンとしてはコンプリートも魅力的だけど『お金はそっちが持つ』ってのと『ブルーレイかDVDの好きな方を選んでいい』。そして『パッケージもこっちが貰う』でええねやね?」
「はい!たなりんもそれでいいよな」
そのやり取りを黙って見守っていたたなりんがようやく口を開く。
「是非それでお願いします」
(え!?標準語?)
「うーーーん。どうしょっかなあー。迷うなあー。即答無理やねえ…。ん?あれ?あんた…、ひょっとして…、ちょっと前に『真剣白刃取り』動画でバスってなかった?」
たなりんの標準語に宮部っちの秘密がー!『藻府藻府』総長がオタクなのがバレちゃうよおおおおおお!と焦る飯塚。そして。
「はい?『真剣白刃取り』動画?なんすかそれ?」
上手にすっとぼける宮部。いいぞ!と思う飯塚。
「お姉さーん。よく見てるねー。その人があの『真剣白刃取り』動画の人やでー」
義経くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!と心で叫ぶ飯塚。
「あ、やっぱり!嘘!マジぃ!?」
目の前のヤンキー娘が猫になる。
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