第319話優しさとやらしさと心強さと


「族あがりの元半グレがユーチューバーですか?」


「ああ。それが何だ?他にユーチューバーって何かあるのか?」


「いや…」


 タバコの煙を吐きながら少し照れくさそうな笑い顔を見せる忍。


「ユーチューバーってのは成功すればかなりの金を稼ぐそうじゃないか。まあ競争の激しい世界だとも思うが」


「世良さんがさっき言ったように今更ぁ歌手や俳優ってのは…」


「何だ?歌手や俳優じゃなければユーチューバーにはなれないのか?売れてるユーチューバーってのは素人あがりが多いんじゃないのか?」


「それは…まあ…」


「それに真っ当な仕事でもある。まあ時代なんだろうが今の小学生が将来なりたい職業ランキングではユーチューバーが常に上位なんだろ。それを飛び越えて現役小学生ユーチューバーだっている。かなり成功しているみたいだしな」


「…どうっすかねえ…。そりゃあ真っ当なんでしょうけど…」


「どうした?『オレオレ』や『薬』で稼ぐよりもよっぽど健全で真っ当な方法だと思うが。お前ら半グレはそういう『金の稼ぎ方』ってのは頭になかったのか?」


「ないですね。そんなこと口にすれば笑われるでしょう。『半グレチャンネル』やりましょうですよね」


「馬鹿か。そうじゃねえよ。『半グレ』にしか出来ないことを合法的にやってだ。それを動画というコンテンツで世に出すんだよ。別に『半グレ』を前面に出せと言ってるわけじゃない。そんなことすれば素人の俺でも分かる。垢バンだろ。ベタなところで『ぼったくりバーに高額請求されてみた』とか『闇金から借りたお金を踏み倒してみた』とか。そんなのお前らなら余裕だろ。そういうのを頭使って考えてやってみろってことだ。下手すりゃ『オレオレ』より稼げるんじゃねえか。真っ当な職業でよ。何しろ子供が憧れる職業だ。プロ野球選手より人気だぞ」


 世良兄がタバコを口に咥えながら、『組チューバー』の存在を知らない忍に『組チューバー』をべた褒めするかのように言う。本心だった。自分は闇金と風俗で充分飯が食えてる。ただ冷静に考えると『肉球会』が考え付いた『ユーチューブ』をシノギにするアイデアはホームラン級であると感心していた。成功するしないは別として。気にはなる。


「まあ、それもいいかもしれませんね。今は何も考えられませんが」


「ユーチューブってのは手軽に始められるってのとテレビじゃ出来ないことが出来るってのが売りだった。今はテレビ業界の人間がユーチューブの世界に流れてると聞いている。そうなると面白いものや新しいものは生まれない。既存のものの使いまわしになるのが関の山だ。そこさえクリアすれば天下取れるぞ。族あがりの元半グレにしか思いつかない『アイデア』だ」


「はあ…」


 族あがりの元半グレだろうと今目の前にいるのは反社の存在に怯えたガキ一人である。そんなガキとの会話が世良兄をいつもより饒舌にさせる。




「たなりん!今日は最近の嫌なことを忘れてパーっといこう!」


 田所に間宮へ勝手にラインを送られ、長文の返信まで受け取ったたなりんは魂が抜けていた。揺れていた。迷っていた。明らかに元気がなかった。そんなたなりんを見かねて飯塚と宮部はたなりんを元気付けようとあるイベントを組んでいた。


『真・七つ目の大罪の無修正バージョンブルーレイをゲットしよう!』


 とある筋から飯塚は『真・七つ目の大罪』無修正バージョンのブルーレイの在庫が少し遠出したところに奇跡的に入荷したとの情報をゲットした。


「たなりん!『真・七つ目の大罪』の無修正バージョン持ってる?」


「いや…。あれは持ってないなり。しかも当時三日間限定で放送された時はまだ中学になったばかりでして…。環境も今より全然揃ってなかったでござるので。それにネットで探しても今は幻の作品となってるなりで…」


「だよねえ。俺も持ってないし見たことないんだよ。あの赤いのが邪魔して見えないんだよねえ。宮部っち」


「あ、自分は専門チャンネルが見れる環境なんで」


「ああ?宮部っち!?それを録画してダビングするぐらいの優しさとやらしさと心強さはないのかい!?」


「いや…、それはダメでしょ。違法ですよ」


「だよねえ。で・す・が!なんと!ブルーレイ版が〇〇屋に入ったんですよ!しかもプレミア価格抜きで!」


「マジですかなり?」


「マジだよ!本気と書いて『ぽんぎ』だよ!」


「飯塚さん…、宮部っち…」


「行きますか」


 三人は電車に飛び乗って○○屋のある街を目指した。そしてその情報は義経もゲットしていた。義経も『真・七つ目の大罪』無修正バージョンブルーレイ版を狙っていた。

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