第301話嫌な予感

「メモ帳機能があります。それに送ってみます」


 世良兄がメインスマホに入れてある通常のラインアプリでメモ帳に『おはよう』と打ち込む。そして送信。するとメインスマホのメモ帳と同時にサブのスマホの『ラインライト』アプリのメモ帳にも『おはよう』と送信される。それを見た小泉が絶句の表情を見せる。構わず世良兄は続ける。


「次にこの『ラインライト』から送ってみます」


 そう言って今度はサブのスマホの『ラインライト』アプリからメモ帳に『おはようございます』と打ち込む。そして送信。するとメインスマホのラインアプリのメモ帳にも『おはようございます』とのメッセージが。小泉の顔がどんどん怒りで赤くなっていくのが分かる。


「間宮のガキゃ…」


「やはり心当たりがありましたか」


「ああ」


「昨日も言いましたようにあの間宮ってのは『危険すぎる』んです。小泉さんが『ラインの乗っ取り』とおっしゃってましたが。『知らんでは通らん』内容でと。私が知りうる限りですが第三者のラインアカウントを勝手に使う方法はこれしかありません。『ラインライト』は日本では禁止されていると言っても正規の方法では手に入らない、ぐーぐるぷれいすとあ、あっぷるすとあで扱ってないだけでして、ウェブ上では普通に手に入ります。スマホからそういうサイトを検索してダウンロードしてインストールするだけです」


 そう言いながら世良兄がメインスマホからサブのスマホをラインで鳴らす。


「それは?」


「私はこの二台のスマホにそれぞれ『ライン』と『ラインライト』を両方入れてます。ラインのアカウントは固定電話の番号でも取れます。最初の確認はメールか通話です。固定電話の番号で最初の登録をし、確認を通話で行うと選べばその固定電話に機械音で四桁の番号を知らせてきます。それを打ち込めば完了です。今、メインスマホの『ラインライト』から通話を選択し、サブのスマホのラインアカウントにライン電話をかけてます。簡単に言いますとメインスマホからもサブのスマホからも二つのラインアカウントを自在に扱えるということです。もし小泉さんのラインアカウントを間宮が別のスマホに入れた『ラインライト』から小泉さんに無断で使用してるなら別のスマホから小泉さんのラインアカウントで電話をかけることも可能ということです。そういう被害はまだ出てませんか」


「今はまだない」


「ではその無断で勝手に使用ってのを止める方法をお伝えします」


「…聞いとこうか」


「二つあります。一つは一度ラインアカウントを消してしまうことです。そしてもう一つはアカウントを消したくない場合。ラインを見張っておくことです。ラインを第三者が無断で『ラインライト』を使って使用した場合、メインのアカウントの方でも見れば分かります。だから間宮は通話機能を使わないのでしょう。そして『知らなかったでは通せない』との内容。なんとなく想像はつきますが、メッセージなら送ってすぐに消去すれば違和感は残りますがかなり有効な使い方が出来ます。ラインとは使えば一番上に履歴が来ます。それをしっかりと把握しておくことです。これでは防ぐという意味では無断使用を止めるとは言えませんが」


「方法はもう一つあるがな」


 武闘派『身二舞鵜須組』若頭の目が獲物を狙う鋭いそれになる。小泉が言う『もう一つの方法』は世良兄も分かっていた。ただそれを言うのは小泉の役。世良兄が言うのは野暮である。


「もう一つの方法とは何でしょう?」


「そのわしのラインを勝手に使ってる馬鹿をさらって詰めることや」


「なるほどです。小泉さんの単独スポンサーは」


「この件を片付けてからや。財布とスポンサーはまったくの別もんやからな」


 女将がどんどん料理を運んでくる。



「おう。わしや。どうした」


「伊勢さんかい。今大丈夫すか」


「ああ」


 間宮が『蜜気魔薄組』組長である伊勢に電話をかける。


「昨日の夜、あの店にツラ出した瀬和って奴っすが」


「ああ。知っとる。世良だろ。わけえのに銭を稼ぐ野郎だ」


「ちょっと計算外でしたね。世良さんがしゃしゃり出てくるのは」


「ん?どした。世良と小泉が繋がるとなんかマズイことでもあんのか。あのおっさんはおめえが潰したんじゃねえのか」


「ええ。きっちりクサビは打ち込みましたが。あの世良さんが小泉さんと繋がれば話は別です」


「どういうことや?」


「不気味ってことです」


「不気味?なんじゃそら」


「小泉さんのスポンサーに世良さんがなったとしたら」


「あ?…居場所のなくなった小泉が『身二舞鵜須組』を割って新しい組を立ち上げるっちゅうことか。まあ『土名琉度組』から直で盃おろしてもらえばないこともない話や」


「そうですか。ちょっと嫌な予感ってやつですね」


「いやな予感か。おめえの予感と占いはよお当たるからのお。世良を潰しとくか」


「ですね。今、チェックすべきは『肉球会』よりもあの男でしょうね」


「分かった。こっちでも動いてみる」


「ありがとうございます」


 電話を切って間宮が少しだけ動きを止める。


(義経…。わりいが世良さんを潰すことになるわ…)


 狂犬がこの街の顔役の一人である世良兄をターゲットとする。

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