第287話お財布
ここからは『身二舞鵜須組』若頭・小泉と半グレ頭である間宮の駆け引きとなる。間宮からの最初の現金一千万を受け取った時から小泉は水面下で動いていた。たかが半グレにしては金回りが良すぎる。自分の舎弟に間宮を探らせていた。どれぐらいの規模で、主にどんなシノギであれだけ潤っているのか、ケツ持ちはどこか。
「そんなの間宮本人をちょいと脅して吐かせりゃあいいじゃないですか」
「あほか。堅気のガキ相手にそんなこと出来るかい。ただあのガキは普通じゃねえんだわ。うちがケツ持っとる愚連隊、慈道んところは月にいくら持ってきよる。シノギの桁が違うがな」
「ガキ同士ってことで慈道にやらせましょうか」
「あ。下手に慈道なんぞに旨い汁教えるこたあねえだろ。うちで調べてあのガキの旨い汁をそのままそっくりうちでぶんどるんじゃねえか。若林もかなりの銭を組に入れとると聞いとる。このまま時代遅れの金も稼げんもんはじり貧じゃあ」
「やな時代ですよね。アニキ。半グレのガキらにシャブで稼がせて凌いでるっちゅうのも」
「トカゲの尻尾切りや。半グレの代わりはいくらでもおるやろ」
「『模索模索』ですよね。最近名前ははやたら聞いとります」
「そうや。あれが慈道より使えんのは分かっとる。だったらわしららしいやり方で旨い汁をぶんどるんや」
間宮が『身二舞鵜須組』小泉をじっくり型に嵌めている中、小泉も間宮を出し抜こうとしていた。
「ガールズバーにオレオレ、キャバにデリヘルにぼったくり。まあ派手にやってるようです。地場の『肉球会』、『蜜気魔薄組』もお構いなしですわ。もともと地元の族の連中がチームを割って作ったグループのようです。『藻府藻府』ですわ。あの」
「知っとる。あそこの人間が一人『肉球会』の若い衆や。それに他の組でもあそこ出身のもんも多い」
「若林んところに伊勢ってのがいまして。その伊勢ってのがかなりの野心家みたいです。その伊勢をうちで動かしますか」
「いや待て。ギリギリまで間宮を泳がす。使えるんは分かっとるんや。食うんはいつでも食えるやろ。だったら向こうからわしに近付いて来とるんや。様子見て『バク』や」
「そうですね」
「ええか。これは組の人間には言うなよ。上手くまとめりゃあ…」
「はい。分かりました」
そして今、この場で小泉が電話をかければ小泉の舎弟がこのカラオケ店に一分以内で駆け付けられる距離にスタンバっていた。
「小泉さん。三日前のお返事をお願いします」
「あんたの『絵』が先や」
「小泉さん。そちらでは薬をシノギにされてますよね。腹割って話しましょう。裏は取ってます」
「知らんなあ」
「ですね。小泉さんの立場ならそう言うしかないでしょう。前にそちらのシマで愚連隊が経営されてるぼったくりバーで飲んだことがあるんですよ。その時に店の店長さんですかね。責任者の方がそちらと仲良しの関係でちょっと表に出るとまずいんじゃないかと思わせるものを山ほど見せてくれまして」
「あ、おんどれはデコか。んなもんいくらでも作れるし知らんと言えばそれで済む話やろ」
「じゃあやってみますか?知らんでは済まないと思いますよ」
「なんじゃわれ。わしを怒らすんがお前の『絵』か。それに所轄のデコにも鼻薬利かせとる。いくらわれが喚こうと握りつぶして終わりじゃ。それだけか」
「そこで現組長の関谷さんです」
「おやじに責任を被せるんか。それこそ意味ないぞ。ええか。われが跳ねんかったらお互いウィンウィンで済む話や。それを蹴ってわしらの『財布』になるんもええぞ」
「小泉さん。そもそも月に三千万、それも毎月。その時点で僕は『財布』以外なんて表現すればいいんですか。他にいい呼び方があれば教えて欲しいですね」
「おい。いくら伊勢の後ろ盾があるんか知らんがわしもいつまでも優しゅう話せんで。慈道の代わりにお前がうちのために動く。それだけや」
「別に僕は小泉さんじゃなく、組長の関谷さんでもいいんですよ」
「おどれ…」
「だから僕も小泉さんと仲良くしたいと小泉さんを最初に選んだんじゃないですか。ハッキリ言います。小泉さんか関谷さん。椅子は一つってことですよ」
ここで小泉がスマホを取り出す。
「間宮さん。スマホやったな」
「やっと分かってくれましたか。よかったです」
そして小泉はスマホのラインではなく通話ボタンで履歴を押す。あらかじめスタンバイしている舎弟への合図である。
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