第278話すべてのはじまりの夜
この田島公園にはもう一組の大物が潜んでいた。間宮と世良義経である。たなりんに興味を持った間宮は義経の声もシカトでたなりんとコンタクトを取ろうとしていた。
『ああいう奴は使える』
間宮の直観。
「間宮君。たなりんは趣味友で本当にいい奴なんだって。『藻府藻府』に入ったのもなんか理由があるんだって。宮部ってのと仲良さそうだったから昔からのツレじゃね。その流れでチームに入ったとかさあ」
「いいからよお。悪いようにはしねえから。世良のツレだろ?そんな大事な奴に俺がなんかするわけねえじゃん」
「うん…」
そしてコンタクトを取る前に三原たちが先にたなりんへと突っ込んだわけであった。
「あ、やべえかも。あの三バカだわ。間宮君。おいおい、一人はミイラ男じゃん」
「ん。まあ様子見てからでもいいんじゃね」
そこで長谷部に続きやられそうになるたなりんを見て義経が慌てる。
「やべえって。たなりんは間宮君と違って半殺しじゃ済まねえかもよ。俺が出てってもいいっしょ」
「まあ待てって。世良ぁ。たなりんってののケンカは見たことあんの?」
「いや、ねえけど」
オンラインゲーム『すとりーとあらいぶ』では何度もたなりんことRINATAN0721にぼっこぼこにされている義経。
「おめえと一緒で『人を見かけで判断するな』のいいお手本かもしれねえよ」
「でも…」
そしてたなりんの悲鳴で義経が動く。
「ありゃあガチだよ。それに相手はいろいろエモノを仕込んでるみたいだし。俺出張るよ」
「まあ待てって。あのたなりんに何かあれば俺が責任取るからよ」
「間宮君…」
そこで起死回生の『ポン酢鉄砲』である。
「何だ?何したんだ?」
「分かんないけど三原の野郎が目を抑えて喚いてるよ。目潰し的なもんを使ったんじゃねえ」
「よし。行こうぜ。世良ぁ。あの三バカはここで潰す」
「了解」
ここで義経よりも、全速力でここへ向かっている宮部たちよりも早く長谷部たちに強力な助っ人が参戦する。
「待たせたな。長谷部、いけるか?たなりん、よく頑張ったな」
「へ…?」
振り絞った勇気ととっておきの秘策で三原の目を潰したたなりんは興奮で状況がよく分かっていなかった。
「…新藤…、おせえよ…」
「へ?新藤君?」
「目がああああああああ!だらああああああああ!くそがあああああああああああ!殺す!殺す!」
「お前うるせえよ。とりあえずお前が死ね」
今日はしっかりとエンジニアを履いた新藤のつま先での打ち下ろす蹴りが三原の頭をサッカーボールのように打ち抜く。意味不明な言葉を叫びながら前のめりにろくに受け身も取れずに倒れ込む三原。
「新藤…」
天草が、江戸川が、そしてこの場にいない間宮までも同じ名前を呟く。
「新藤?あ、宮部んとこのナンバーツーの」
「ああ」
ここで間宮がスマホを取り出し電話を掛ける。何か言いたそうな義経にそっと人差し指を口に当て『静かに』の合図を送る。数コールで相手が出る。
「おう」
「伊勢さん。間宮っす。今大丈夫っすか」
「ああ。ちょうど今、小泉さんを接待しとるとこや。何しとんや。おめえ今どこや」
「すいません。出先でちょっと『肉球会』の若い人とかち合いまして」
「何?あそこの誰とや?」
「いえ、もう終わりますんで。終わらせ次第向かいますんで。小泉さんにくれぐれも楽しんでもらってください」
「おう、分かったわ。こっちはやっとくんで。なるべくはよう来いや」
「はい」
そして電話を切り一言。
「行くぜ。世良ぁ」
「すいません。小泉さん。間宮からでした」
「おう。どうしたんや。遅いやないか。間宮さんは」
「ええ。向かってる途中で『肉球会』の若い衆とかち合ったみたいでして」
「ホンマか。で?」
「ええ。それは無事に片付いたそうです。理由はどうあれ小泉さんをお待たせしてしまったことに申し訳ございませんとのことです。すぐにこっちに向かってるそうです。小泉さんをよおく接待するようキツウ言われました」
「ま、ま、ええがな。地元のトラブルはしゃーない」
「おい!この店の店長にもっといい女ぁつけろってゆうて来んか!わしの顔潰す気か!」
「ま、ま、ええがな。今日はそういう集まりでもないから」
「しかし急に連絡もなく来られるとは。間宮ではなく組の方に連絡いただければもっといい店を…」
「あくまで間宮さんとの個人的な用事や」
間宮は今夜、もう一つ大きな用事を控えていた。『身二舞鵜須組』乗っ取り計画。そのキーとなる人物、『身二舞鵜須組』若頭・小泉は三日前の間宮とのカラオケで出された宿題の答えを持って『蜜気魔薄組』のシマへ足を運んでいた。
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