第279話ご指名でーす

 間宮と義経が歩きながら現場に近付く。それより先に宮部、勝、宗助が到着する。


「長谷部ぇ!たなりん!大丈夫かぁ!」


 その場にいる新藤、天草、倒れ込んでいる『藻府藻府』の特攻服、長谷部か。たなりんの無事な姿も確認する。奇声をあげている三原、顔面包帯男は…江戸川か。素早く戦況をチェックする宮部。そしてもう一度確認する。


「長谷部ぇ!」


「…おう。いけるよん…」


「たなりん!大丈夫か!?」


「宮部っち…!たなりんは頑張ったなりよ…」


「おう。たなりんはたいしたもんだ。後でゆっくり聞かせてくれ。新藤!」


「わりい。俺がもっと早く来てれば長谷部は」


 そこで江戸川がトチ狂う。


「宮部ぇえええええええええええええええええええ!会いたかったぜええええええええええええええ!」


「あーん。てめえまだ生きてやがったのかよ。よかったなあ。確変は継続中みたいだぜ。二日連チャンで殺してやんよ。パチ屋のガラスは弁償したんかよ?」


 顔面包帯男が江戸川だと知り勝が驚く。


「マジかよ…。あれだけ顔面修羅場にしたってのに…。いや、あばらも相当いかせてもらったはずだぜ…」


「長谷部。奴らが来てどれぐらいになる」


「…さあ、すぐにライン送ったから十五分もしてねえんじゃねえか…」


 スマホを確認する宮部。長谷部からのスタンプ連発からジャスト十分。


「宗助!サツが来るかもしれねえ。後続に田島公園周りで待機と通達!」


「おす!」


「おいおい。三対二じゃ数が合わねえんじゃねえ?」


「間宮…」


 この場にいるどちらからも嫌悪されている間宮の登場で一気に空気が変わる。


「あ?間宮だと。何でお前がおるんじゃあ」


「世良ぁ…」


「え?こいつが?」


 先ほどまで的確な指示を出し、自分一人で江戸川、天草、三原をやっちまおうと思っていた宮部が間宮、そして義経の姿を見て冷静になる。初めて義経を見た勝も宗助も不気味さを覚える。エコの言葉。『勝てる気がしねえ』。こいつに…と。そして義経は真っ先にたなりんの元へ向かう。


「たなりん、大丈夫か?」


「つねりん?つねりんなりか?」


「ああ、つねりんだ。見てたぜ。さっきの。すごかったわ。あの三原の馬鹿を瞬殺じゃねえか。すげえよ」


「いやあ…、見てたなりかあ…。たなりんは…やる時はやる男なりよ…」


 義経の言葉に宮部、新藤、勝、宗助が驚く。


(何?あの三原をたなりんが瞬殺だと!?)


 そして長谷部の言葉で納得する。


「…俺はたなりんに、逃げろって言ったんだがよ。あいつは…、仲間を置いて逃げるようなことは出来ないって…。たなりんが俺を守ってくれたんだぜ…」


 奇声をあげながら地面を這っていた三原が目を充血させながら立ち上がる。


「おもしれえもん使ってくれんじゃねえか…。殺したるよお…」


「よし。あとは選手交代。たなりん。あの馬鹿は俺がとどめ刺していいだろ?」


「ごちゃごちゃ言ってねえでまとめてかかってこいやあ!『藻府藻府』に間宮ぁ!世良ぁ!全員殺してやんよおおお!」


「だってさ。間宮君。こいつら俺が殺っちゃうから。いいよね」


「待てよ。世良ぁ。これはうちのケンカだ。関係ねえてめえらは引っ込んでろや」


「あ?宮部君だっけ。耳わりいの?三原の馬鹿は俺や間宮君もご指名だよ。じゃあこうしよう。たなりんとの約束で俺は三原のとどめをささにゃあいけねえんだわ。江戸川はあんたご指名だろ。残った天草は…新藤君が。これでちょうどよくね?いいでしょ。間宮君」


 その時すでに間宮はたなりんに話しかけていた。


「たなりん君。すげえじゃん。強いネエ。君」


「いやあ…、そうでもあるなりよ…」


 宮部がそれを見てガチ切れする。


「間宮。たなりんに近付いてんじゃねえよ。殺すぞ」


「あ?何興奮してんの?おめえは江戸川のご指名だろ。俺は人気ねえから指名が取れねえんだわ。だったらたなりん君とお話ぐらいしてもいいだろ。余った他の連中と話してもつまんねえしよお。俺は弱い奴には興味ねえんだわ。それとも交代してくれってか?それならそれでちゃんと言ってくれよ。俺がきっちり全殺しにしといてやるぜ」


「宗助は長谷部を病院へ連れてってくれ。勝はあの野郎がたなりんにへんなことしねえよう見ててくれ」


「おす!」


「一人一殺!世良ぁ!てめえのケンカ見せてもらうぜ!」


「人のケンカ見てるほど余裕ないっしょ、宮部君」


 三原、天草、江戸川の狂犬トリオと『藻府藻府』ナンバーワン宮部、ナンバーツー新藤、そして天真爛漫な無敵の破壊屋・世良義経がぶつかる。

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