第271話シナリオ

「ふん。なんぞ途中でデカい声が聞こえてたがケンカなんぞしとらんやろうな」


「おじき」


 そんなことを言いながら店内に戻ってくる狭山と田所。え?聞こえてたの?と思わず顔がカーっと赤くなる飯塚。


「いえいえ。仲良く意気投合ですよ。それよりコーヒーのおかわりを頂けませんか」


 とっくに空っぽとなったテーブルのグラスを見ながら世良兄が言う。


「ふん。その前に灰皿を新しいのに変えた方がええのお」


 短時間で世良兄が作った山盛りの吸い殻を見ながら狭山が言う。そして新しい灰皿、次にコーヒーが三つとすぐに運ばれてくる。


「それより田所のあんさん!なんと世良さんが『組チューバー』として協力してくれるとのことです!」


「え?それはホントですか?世良さん」


「ちょっと待ってください。飯塚さん。協力するとは言いましたが『組チューバー』になるとは一言も言ってませんよ」


「え、でも…」


「飯塚さん。君は『組チューバー』として『肉球会』のために動いてますよね。職業ユーチューバーとしてです。田所さんも同じく」


「そうですけど…」


「飯塚さん主導で始まった活動ですよ。人を使うと『人件費』がかかります。経営者なら常識の考えです」


「あ」


「今はまだ宮部君やたなりん君も無報酬で手伝ってくれているみたいですが、本当の意味で成功するなら彼らにも『報酬』をきちっと払わないといけませんよ。それに私は『全面的に手伝う』と言いましたが所属はあくまで自分の組織にあります。まあ、分かりやすく言いますと『私はいくら成功しようとそちらから金銭などは一切受け取らない』、『その代わりリスクも背負わない』、『それを踏まえて私に出来ることは全面的に協力する』ってことです」


「それはつまり…」


「飯塚ちゃん。これは世良さんの最大限のご厚意ですよ。世良さん、ありがとうございます。おやじにもこのことはきちっと報告しておきますんで。学や健司、達志にもです」


「そういうことです。弟の件もありますし。私は『肉球会』の方から見返りがありますんで」


 新しいコーヒーが淹れられたカップを口に運び、それから新しいタバコを取り出す世良兄。そして続ける。


「まずはそっちが把握している情報とこっちのネタのすり合わせをしておきましょうか。間宮は今、ガラをかわしてます。『身二舞鵜須組』、『蜜気魔薄組』の上位団体のお膝元に出向いてるようです」


「なんですと?あの小僧、伊勢を飛び越えて『身二舞鵜須組』に接触してるんですか!?」


「それは分かりません。私ならこの街の地盤が固まったと判断したらシマの拡大を考えます。すでにこの街でやることはやったんでしょう。半グレ『模索模索』の勢力拡大と『蜜気魔薄組』の乗っ取り。あそこの先代若林を殺った実行犯も未だに捕まってません。そして『肉球会』の若頭補佐襲撃に若い衆である京山さん襲撃。堅気さんを巧妙に陥れシノギも盤石。それもオレオレや薬よりももっと確実で金額もデカい。そしてリスクも低い。知ってます?間宮は遠征に出る前にこの街に残った『模索模索』幹部たちにわざと競わせたんですよ」


「わざと競わせる?どういう意味ですか?」


「五人の幹部。中山、福岡、鹿島、比留間、そしてうちの義経。それぞれが一つの組織の長として稼ぎ、間宮へ上納するのが『模索模索』のやり方でした。その五人に争わせたんです。『負けた人間は別の幹部の下につくか、それが嫌なら極道の盃を受けるか、それも出来ないなら不良を引退しろ』と」


「なっ…」


 思わず絶句する田所。そして言葉が出ない飯塚。


「そして五人の幹部のターゲットは『肉球会』、『藻府藻府』となりまして」


「だから中山は裕木さんを…。それに比留間やマシマシと『藻府藻府』がぶつかったのものすべて計算通りってことですか…」


「マシマシ…、鹿島のことですか。そういうことになりますね。ただ義経だけは特に大きな動きを見せてませんね」




 一方。


「世良よお」


「何?間宮君」


「忍と比留間、マシマシの三人は今どこで何をしてるんだろうねえ」


「さあ。コンビニでバイトでも、あ、コンビニも無理かな。履歴書で落とされるかな。ガテン系ならいけるかな。どっかの炎天下で汗水垂らして勤労に励んでんじゃないの」


「そうかなあ。でもちっと知りすぎてるし。口も軽そうだし。不良を引退するにも引退の仕方ってのがあるんじゃね?」


 そして間宮が悪魔的行動に出る。

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