第270話『肉球会』、『藻府藻府』、そして『世良義正』

「私はユーチューブの世界はさっぱりですが動画再生回数が百万越えならたいしたものかと。それぐらいは知ってますよ。それでユーチューブではないとは。SNSですか?」


「はい。実はこれなんですけど」


 そう言ってスマホを取り出しツイッターを弄り、例の『真剣白刃取り動画』を世良兄に見せる飯塚。その動画を観る世良兄。現在の動画再生回数は二百万に迫っていた。


「これは…」


「はい。これはうちが撮影した動画です。僕の判断でちょっと削除される可能性もあるかと思い、『仁義チャンネル』の方でのアップはしませんでした。その代わりにどれぐらい受けるんだろうと実験の意味を込めてのツイッターでの投稿です」


「…、この特攻服は『藻府藻府』ですね。それで飯塚さんも田所さんも現役の『藻府藻府』ってわけですか。まあ改めてこの動画を観るといい考えですね。この真剣白刃取りをしてるのが顔は映ってないけど宮部君ですか?」


「はい。宮部っちです。現『藻府藻府』頭です。健司の跡を継いで十代目をやってます」


 何度もスマホに触り、動画を繰り返し再生する世良兄。そして一言。


「これはガチですね。見れば変わります。ドラマの撮影とか言ってますが。これは作りものでは出せない空気があります。でも種明かしは分かりませんね。このポン刀を振り下ろしてる人間の顔も映ってませんが『模索模索』の連中ですよね」


「はい。確か…マシマシって奴ですね」


「マシマシ…。ああ、鹿島ですね」


「はい?鹿島。あ!確かそんな名前だったような…。でもそんなに有名なんですか?そいつは。世良さんの情報網がすごいからですね」


「ガラを抑えている中山忍って小僧から聞きました。他にも比留間ですか。それに福岡、この鹿島。そしてうちの義経が『模索模索』の幹部『だった』と」


「『だった』?ですか」


「ええ。間宮は形だけでしょうが『模索模索』も割りました。まあ半グレってのは繋がりが見えない方が何かと便利でしょうし。それに他にも幹部クラスの人間はいるでしょう」


 そこで飯塚が思い出す。世良兄は新しいタバコを咥える。


「そう言えば直属の親衛隊みたいなのもいますね。実は天草ってのと僕はぶつかったんですが。バス停を素手でひん曲げるようなロン毛の金八先生みたいな奴なんですけど」


 飯塚のよく分からない説明にピンとこない世良兄。


「天草なら知ってますよ」


 口に咥えたタバコに火を点けながら答える世良兄。


「その天草をやっつけたと言いますか僕らをあいつから助けてくれたのが義経君なんです」


「なるほど。さっきのたなりん君との話に繋がるわけですね」


「ま、まあ…、そうなんですが。同じ『模索模索』、まあ割れても本質は同じなのでそう言いますが。義経君は『模索模索』って言うより間宮のツレって感じですか。きっと本人も『模索模索』幹部って意識はなかったと思います」


「あいつは組織で群れるような奴でもありませんので。それでこの動画の種明かしは何でしょう?真剣白刃取りは漫画や映画の中だけの話でしょう。実際にはどんな達人でも無理でしょう。拳銃の弾丸をつまむようなもんです。動画を観たところ手にメリケンを握ってるわけでもありませんし」


「メリケンは惜しいです。実はそれ『ジッポライター』を上手く掌で挟んでそれで受け止めてるんです」


「なるほど。『ジッポ』ですか。それなら納得です。宮部君はなかなかどおして。京山さんにも負けないぐらい、いい十代目ですね。宮部君とうちの義経がやりあったら」


「それはさせません。僕が責任を持って義経君を、いや、つねりんを僕やたなりん君色に染めて見せます。僕をあの天草から助けてくれた時もつねりんは見返りとかそんなのを一切言ったりしませんでした。もう大事なツレなんです」


「ツレですか。いい言葉ですね」


 そう言って再び天井に上るタバコの煙を遠い目で見つめる世良兄。そして言う。


「いいでしょう。私もその『組チューバー』に協力しますよ」


「え!?」


「飯塚さんたちは『藻府藻府』を使って間宮に対抗し、その動画を撮ってるんですよね?」


「まあそうなります」


「間宮をもう半グレ扱いするのは止めましょう。あいつは『モンスター』です。『ジャパニーズマフィア』と言えば想像しやすいでしょう。伊勢の『蜜気魔薄組』を操ってるのも実質はあいつでしょう。極道と半グレを後ろから操っているのがあいつです。『蜜気魔薄組』は日本最大組織『血湯血湯会』です。私があいつならどんどん上を目指すでしょう。そしてそれにうちの義経も付き合うでしょう。今のままでは。ここであの『モンスター』を止めることが出来るのは飯塚さん。きっとあなたがカギを握る。『肉球会』、『藻府藻府』、そしてこの『世良義正』。この街の顔役がその手伝いをするってことです」


「世良さん…」


「まずはそっちが把握している『模索模索』のシノギ、特に闇金、風俗店について詳しく話してください。その前に」


 そう言って席を立ち、店の出口に向かう世良兄。そしてドアを開け、田所と狭山を見せの中へと呼び戻す。

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