第265話お騒がせしてます

 世良兄がある『匂い』をかぎつける。眼前の丁寧な対応の田所。本人曰く『組チューバー』をやっている、と。その発想は面白いがそれだけ。『自分なら』。その時。


 カランコロン。


「田所のあんさん」


「飯塚ちゃん…」


「狭山さんから連絡貰いまして。急いで来ました」


 世良兄がかぎつけた『匂い』。飯塚の存在。だろうな。『肉球会』に自分がシノギを世話した時に似た感覚。極道だけでは手を余すアイデア。『組チューバー』も確実にブレーンたる存在がいるはず、と。それがこの『飯塚』という男。その辺の『底辺ユーチューバー』をスカウトしてきのかと思えるぐらいに何のオーラも感じない。


(『田所のあんさん』に『飯塚ちゃん』…。田所は堅気になって『底辺ユーチューバー』と兄弟ごっこをしてるのか?)


 そんなことを考える世良兄。見た目も自分より若い。


「そちらの方は」


「あ、初めまして。飯塚と申します」


「自分と一緒に『組チューバー』をやってる飯塚です。こちらは世良さん。昔からいろいろとおやじにお力添えを頂いてる方です」


「どうも世良です」


 世良の挨拶に頭を下げる飯塚。そして飯塚のコーヒーをテーブルへ運んでくる狭山。そしてその名前に少しだけ動きを止める飯塚。田所が飯塚へ軽く囁く。


「(義経のお兄さんですよ)」


「(あ、え?)」


 田所と飯塚のやり取りを見ながら世良が一言。


「今回の件で皆さんをお騒がせしてます世良義経は自分の実の弟です」


「そ、そんな。『お騒がせしてます』とは…。義経君とは最近知り合って仲良くさせてもらってます」


「ほお。それは…。義経と親しくされてるようで」


「あ、はい。仲のいいツレが最近ふとしたことで義経君と仲良くなりまして。そのツレということで会った時に話が弾みまして。実際に会ったのはまだ一度だけですが」


 ここで世良兄が機転を利かせる。


「田所さん。すいませんが弟の件で飯塚さんと『サシ』で話をさせてもらえませんか?」


「あ、大丈夫です。じゃあ自分がいったん席を外します。店の外に出てますんで。こんなに狭い店じゃあ聞こえちゃいますからね」


「狭くて悪かったのお」


 キッチンからタバコを咥えた狭山の声が届く。


「すいません…。でも丸聞こえですからね。おじきも一緒に出ますよ」


「おいおい、店番は誰が。今は他に誰もいんぞ」


「外でタバコを吸うだけですから。灰皿持ってです」


 そう言って店の外へ狭山と一緒に出ていく田所。二人を視線で見送った世良兄が視線を飯塚へと戻す。


「(すいません、なんか丸聞こえみたいですね…)」


「普通に話していいと思いますよ」


 声のヴォリュームを下げる飯塚に対し、普通に返す世良兄。そしてタバコを咥え、それに火を点けながら続ける。


「飯塚さんは今おいくつですか」


「二十歳です」


「自分が今二十三ですから。三つ違いですかね。三つ下だと『京山』さんの世代ですかね」


 年下だろうが親しくない相手には常に敬語を使う世良兄。この世界ではその方が楽だから。年齢がものを言うのは学生までと知っている。


「そうです。健司世代です」


「はい?」


「あ、合ってます。健司は下の名前でして。名字は京山で合ってます。はい。『京山』世代です」


(ん?あの京山を下の名前で。こいつ、京山のツレか?)


 そう思いながら次の確認。


「ひょっとして。飯塚さんは同じチームで」


「いえ、僕は『藻府藻府』とは違います。学校で仲良くなってですね」


(京山は高校行ってないだろ。てことは中坊かその下ん時のツレか?)


「『組チューバー』ってことは飯塚さん、もしかしてユーチューバーの方ですか?」


「元々は…」


 ここで世良兄にこれまでの経緯を話す飯塚。そしてそれを理解した世良兄が飯塚へ言う。


「正直最初はめんどくさいと思いませんでした?」


「いえ、それは。それにこれは自分からお願いした部分が大きいですし。今はまだ何も結果も出してませんし…」


「いえいえ。私も似たようなもんですから」


「世良さんがですか?」


「ええ。私も昔、『肉球会』の仕事を立ち上げから協力したことがありまして。田所さんから聞いたことありませんか?」


「詳しい人がいるってぐらいです。そこまで詳しくは聞いたことないです」


「まあ興味がありましたら後から田所さんに聞いてください。そして田所さんや店の方に席を外してもらった理由ですが」


 世良兄が飯塚へタバコを進める。

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