第235話ともよ

「さいせーんばーこにー♪さいせんばこ投げたらー♪さいせんばこばこさいせんばこうっうっー♪」


 田所のよく分からない鼻歌を聞きながら、え?あれって百円玉ですよね?と思う飯塚。


「いやあ、この健司が回収してきたスマホはいろいろ面白いものが入ってますね」


 忍のスマホを充電し、中の情報をいろいろと解析する飯塚。田所はハードディスクにコピーしてきた忍の事務所にあったパソコンのデータをチェックする。


「はらだとーもよー、その昔俺たちは汗をかいたー♪はらだとーもよー、その昔俺たちはにしびをおいかけたー♪はらだとーもよー、その昔俺たちは土の匂いをしてたー♪はらだとーもよー、その昔俺たちは守るために走っていたー♪」


 鼻歌好きだなあ、田所のあんさんはと思う飯塚。


「こっちはほぼ終わりましたね。名前と連絡先、画像やメール、ラインのスクショ、GPS追跡アプリやツイッターアカウント、各アカウントのDMの内容、ギャラクシーなんで通話録音も聞けるのはラッキーでしたね」


 京山から受け取った忍の個人情報が詰まったスマホをほぼほぼ丸裸にし終えた飯塚。


「お、終わりましたか。こっちもまあほぼほぼ終わりですね。『飼い犬リスト』ってこれは日付が金銭の受け渡し日で、金額がそのまま回収した金額、名前が載ってるんでそっちの携帯の方と紐づければ被害者の方はある程度分かるでしょう」


「そうですね。どうします?田所のあんさん。これは僕らがやります?それとも神内さんの方へ揃えたデータを丸投げした方がいいですかね?」


「そっすねえ。共有でいいんじゃないっすか?とりあえずコピーして同じものを健司に渡しておきましょう。被害に遭ってらっしゃる方は自分らがいっても頑なに口を閉ざすでしょうね」


「そうですよねえ。確かに。そこは信頼されていらっしゃる『肉球会』の皆さんに任せた方がいいと僕も思います」


「このままずっとはっしり続けて♪どーぶーのなかー♪ぼちゃーん」


 田所のあんさんはパソコンの画面を見ながら作業する時、鼻歌を口ずさむ癖があるよなあーと思う飯塚。と、同時に、あ!この原曲は分かる!と思う飯塚。と、同時に、京山から渡された新しい動画を見ながら呟く。


「まあ、自業自得なんでしょうが。これは…。なかなかいいセンスしてますね。まあ世に出せないですが」


 忍のセンズリ動画を見ながらいろいろと思う飯塚。


「あ、かしらが飯塚ちゃんに感謝してましたよ」


「え?僕にですか?あの住友さんですよね?」


「そっす」


「いや、僕はまだなにも結果を出してませんし…。それがなんで…?」


「ま、健司もまだまだ若いっすからねえ。おやじの教えもまだ半分も教わってないでしょうし。人間的にも未熟な部分が多いっすからねえ。まあ、今回の件はそれがいい方に転がりましたんで。結果オーライじゃあ意味ナッティングっすから。それよりこの『センズリ大好き青年』の方が今後心配っすね」


 いろいろと怖い想像をする飯塚。


「やっぱりそうなりますかねえ」


「ええ。これだけのことをやってきて、半グレ連中のデータをこれだけ流出させて。それにかしらと健司にいろいろとうたわされたでしょうからね。間宮って小僧も口封じに動くんじゃないっすか?それに半グレ連中も本職とつるんでますからね。『蜜気魔薄組』ですか。ま、自分らには関係ないことっすけどね」


 間宮とサシであったこと、喋ったことを思い出す飯塚。健司に対して抱いていた感情。「人を殺すのだけはして欲しくない」との思い。間宮に対しても自分は甘いのだろうと思いながらも似たような気持ちを持っていた。半グレでものすごく悪いことをしてるのだろう。いろいろあるんだろう。でも…。そんな飯塚の気持ちを察して田所が言う。


「飯塚ちゃん。やれることをやりましょう。それが大事かと」


「そうですよね…」


 悪意は誰にでも突然ふりかかる可能性がある。いわれのない暴力もまた同じく。そういうのはニュースやテレビで今まで何度も見てきた。これからのことを考えると気持ちの弱さが命取りになる。間宮と次に会う時、ぶつかることは避けられない。強くならなきゃと思う飯塚であった。




 『身二舞鵜須組』若頭である小泉との『個人的大事な会話』を終え、マイクを握って棒読みで画面に表示される歌詞を読んでいた間宮が『おどるポンポコリン』の音楽が終わってから静かになったのを見計らい小泉に言う。


「あ、小泉さん。念のために『ログ』は消しておきましょう」


「あ?『ログ』ってなんや?」


「ああ。すいません。『ログ』ってのは『記録』です。さっきのが万が一第三者に漏れたら大変じゃないですか。まあないと思いますが。信じられないと思いますがこういうのって意外と普通に外に漏れますんで。ほら、よく個人情報漏洩問題って聞くじゃないですか」


「ああ。そうやな」


「僕も消しますんで。そっちもさっきのやり取りは念のために消しておきましょう」


「おお」


 そう言って互いに先ほどのラインでの会話をすべて消去する。そしてその画面を見せ合う。


「これで大丈夫です。じゃあ歌いましょう」


「ああ、歌はお前に任すわ。こっちは酒を持ってこさせてくれるか」


「あ、そこにメニュー表がありますんで。決まったら言ってください」


 互いに消した小泉との秘密のやり取り。消去する前に間宮はすでに『ラインライト』の方で『ログ』をすべてスクショしていた。

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