第236話金八先生

「ああー、久しぶりの地元はいいねえ」


「つーか一週間も空けてねえだろ」


「せやなあ」


 間宮より先に地元へ戻った三原、江戸川、天草の三人。咥えタバコで地元の街を歩く。


「間宮はいつ戻ってくんのかねえ」


「さあ。ま、すぐに戻ってくるやろ。そんなこと言うてたし」


「それより地元組はどうなってんだ。忍や軍紀はとっとと『藻府藻府』の連中や『肉球会』もぶっ潰してんのか」


「まあ、本職の『蜜気魔薄組』がだらしねえから『肉球会』は無理やろ。あいつらじゃあ。マシマシも比留間も世良も外様は使えねえっしょ。せめて『藻府藻府』の馬鹿どもぐらいはやってんじゃね」


「おい、あれ」


 天草が片腕で二人を制し、前方から歩いてくる二人の男たちを指す。


「おいおい。あれって新藤じゃね?もう一人は…知らね」


「あかんなあ。忍も軍紀も使えねえわ。ありゃあ新藤と冴羽だ」


「冴羽?『藻府藻府』のメンバーじゃねえか。しょうがねえなあ。殺っとく?」


「なんで俺らが軍紀らの尻拭いまで…。まあ、面白そうだからいっか」


 新藤と冴羽も元『藻府藻府』である三原たち三人に気付く。


「おい。冴羽。前方に馬鹿三人が見えるだろ」


「あ、いるねえ」


「お前は先代の京山さん引退後に『藻府藻府』入ったじゃん」


「ああ。俺は宗助の紹介で宮部やお前に認められてからだから。先代の頃は知らねえんだよ。てことはあれか」


「そう。あの馬鹿三人は元『藻府藻府』だ。京山さんたちが引退する時に抜けた連中。宮部を頭と認めなかった馬鹿どもだわ」


「元『藻府藻府』と二対三か…。十代目としては敗けることは許されねえってか。根性なしで抜けた馬鹿どもに敗けるわけにはいかねえよな」


「ああ」


 そうして互いにメンチを切り合いながら近づく三人と二人。


「おう。新藤じゃねえか。まだ生きてたんか。おう」


「見りゃあ分かるだろ。馬鹿か?お前」


「はっ、相変わらず口だきゃあ達者やのお。横にいるんは舎弟か」


「根性なしでチームを抜けたお前らと違う筋金入りの十代目メンバーの冴羽純だ。舐めてんじゃねえぞ。そこのイケメン兄ちゃんら」


「あ?てめえ『カマ』かよ。しっかりしゃぶれよ。新藤も宮部もそちんらしいけどな」


「はっはっはっはー!」


 同じくタバコを咥えていた新藤と冴羽。馬鹿笑いしている三人の一人、天草へ向かって冴羽が火の点いたタバコを指で弾く。タバコは天草の体に当たって地面へと落ちる。


「ほお…。今の宮部は下のもんの躾がなっとらんみたいやのお…。『タバコのポイ捨て』はいけませんってちゃんと教えてもらってないみたいやな。マッチ一本火事の元、ポイ捨て一本命の元つってな。死ぬか?」


 そう言った瞬間、天草の拳が冴羽の顔面目掛けて放たれる。それをギリギリまで見切って交わす冴羽。そしてそこにものすごい勢いでバイクが突っ込んでくる。三人と二人の直前でターンを決めて止まりメットを取るバイクの運転手。軍紀である。


「おい。お前ら。やめとけ」


「ああ?軍紀じゃねえか。てめえは関係ねえだろ。すっこんでろや」


「軍紀ぃ。今はこの馬鹿三人が俺らに粉かけてきてんだよ。お前の相手はこの後にしてやっから二、三分待っててくれや」


「あ?二、三分やて?ホンマにおもろいこと言うてくれるなあ。ああ?新藤ぉ!」


「お前みてえなボケがナンバーツーなんぞしてっから抜けたんだよ!軍紀ぃ。止めんじゃねえ」


「あ?うちを割った軍紀じゃねえか?こっちは三人だろうと四人だろうと一向に構わんぜ。まとめてかかってこいやあ!間宮の飼い犬どもがあ!!」


「黙れ!」


 軍紀の一言でいったん黙る二人と三人。


「お前ら。間宮は何て言った。俺らに任せるっつったろ。だったらお前らはここでは部外者なんだよ。それとも間宮に歯向かってでも俺とやるか?それと新藤、冴羽。四人どころか三人、いや、サシでやってもこの三人には勝てるかどうか分からねえ。俺でもだ。宮部はそういうんじゃねえだろ。俺もこんな不本意な形でおめえとケリつけたかねえぜ。新藤」


「軍紀…」


「おいおい軍紀。おりゃあこのボンクラに一張羅を台無しにされてんだわ。火の点いたタバコをぶつけられてんだぜ」


「だからやるなとは言ってねえ。間宮の許可がおりりゃあいくらでもやればいいだろ。順番があんだよ。今任されてんのは俺らだ。それでも止まらねえつうなら俺が相手してやんよ。ああ!?」


 暫く天草と軍紀のにらみ合いが続く。ロン毛をなびかせながら軍紀の顔面すれすれまで顔を近付け、メンチを切る天草。


「軍紀ぃ…。てめえもいつか一回遊んでやんよ…」


「ああ。よろしく頼むわ。金八先生よお…」


「おい。金八先生。しらけちまったわ。行こうぜ」


「うるせえ!おめえまで金八言うんじゃねえ!殺すぞ!」


 そしてぶつくさ言う天草をなだめながらこの場を去っていく三原たち。


「軍紀。一体どういうつもりだ。助けられたとは思っちゃねえぞ」


「強がりはいいが。あの三人は別格だ。新藤、冴羽。俺が止めなきゃ確実にお前らはやられてた。確実にだ。俺でもあいつらには勝てねえ。そういうことだ」


「ほお…」


「忍は失脚した。あとは俺と世良だけだ。近いうちに俺の方からぶつかりに行く。宮部に言っとけ。俺は正面から行くとな」


 そう言ってその場から単車に乗って立ち去る軍紀。


「冴羽。正直に言ってみ。あのロン毛のパンチはどうだった?」


「ありゃあつええわ。それにあいつも本気出してねえだろ」


「だろうな」


 三原、江戸川、天草の三人のことはすぐに宮部へと知らされた。

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