第234話じい
「ちとあめえんじゃねえか。住友」
二ノ宮が『肉球会』幹部会にて住友に言い放つ。
「二ノ宮」
相談役の井上が一方的に意見する二ノ宮を止める。
「いえ、相談役。おじきの考えを最後まで聞かさせてください」
「まあ、腹割って話すんが一番や。ここは住友の言う通り二ノ宮の兄弟の考えを最後まで聞こうや」
『肉球会』組長・神内の言葉に二ノ宮が続ける。
「そらあ堅気さんを第一にってのは分かるわ。動画の件やがそれも分かる。あんなもんが世に出されたら終わってまうわなあ。ただ、これは『自業自得』な部分の方が大きいんちゃうか。てめえで春買っといて、それを動画に撮られましたからってえのをうちが面倒みるってえのは違うんじゃねえか」
「おじき。確かにおっしゃる通りです。ただ被害者って言えば語弊がありますが皆さん無理やり犯したとか強姦したってわけじゃあありません。多くの方がしっかりと合意、それもまあ難しい部分ですが金銭を支払ってその対価として楽しんだわけでして。男ならその気持ちは理解できると思います。そういうのがしたくても出来ない方や相手のいない方が銭金を払ってその時間を楽しむのは真っ当なことかと。むしろそれを黙って『盗撮』し、それをネタにゆする方が悪質だと思います」
「それぐれえわしも分かっとるわい。わしが言いたいのはそういうリスクも含めての遊びちゃうんかってことや。わしが動画にそんなもん撮られても『おう。好きにせえ』で終わることや」
「二ノ宮。お前がそうでも堅気さんの多くはそういう訳にゃあいかんのや。家族もおられる人もおる。小さいお子さんを抱えてる人もおる」
「だからそれも含めての『自業自得』と言うとる」
「住友よ。お前も好きに言うてええ。思とることをそのまま言え」
「はい。おやじ。自分もおじきの考えは間違っちゃいないと思います。家族や大事な人にバレたくねえならそういうことは我慢してればって話に極論なると思います。それに社会的地位の高い方も同じくです。春買うのも女囲うのもてめえの甲斐性だと思います。ただ、自分らがこのシマにいる存在意義ですかね。人間ってえのは所詮人間です。完璧な人間なんていないでしょう。目の前の誘惑に負けるのも人間です。被害に遭われてる方を仕方ないで切り捨てるのはちと可哀そうと思いますね。うちでやれることはやるべき、むしろこういう時こそうちが動くべきだと思います」
「動く動かんの話をしとるんちゃうわあ」
「二ノ宮。住友に最後まで喋らせたれ」
「おじき。自分の甘えた考えで気を悪くされたならすいません。ただ今回の件は誰しもがいつ被害に遭ってもおかしくないってことです」
「あ?どういうことや。わしは一向に動画なんぞ撮られても構わんぞ」
「二ノ宮!」
「相談役。いいんです。おじきの考えは間違っちゃいませんので。むしろ一番正しいと思います。ただ『センズリ』は誰にも迷惑をかけません。文字通り自分を慰める行為です。それを動画に撮られたとして。今回の被害者の方たちが同じような要求をされたらどうでしょう。家族や大切な存在があるからそういうのは我慢して利用しない。誰にも迷惑かけずに自分でこそこそ隠れてやる。それを動画に撮られたらです。今回の半グレ連中はそういうことも平気でやれる連中です。『自業自得』で切り捨てていたらこのシマに生きる自分らの存在意義はなくなります。それこそまた『怠慢』と言われても返す言葉がないかと」
「わしも住友の考えに一票や。理屈をうだうだ考える前にや。すでに目の前に困ってる堅気の衆がおるって分かったんや。それを理屈で切り捨てるんは住友の言う通り『怠慢』以外なにものでもない。それにやり方も巧妙や。これを無視しとると半グレ連中はどんどん調子に乗る。うちのシマもだいぶ好き放題にされとる。それにいずれ伊勢んとこも潰さにゃあならん」
「おやじ。いいですか」
「おう。ええぞ」
「ここでうちが動く前に飯塚さんたちはすでに動いてくれてます。敦以外にも何名かが協力してくれてると聞いとります。おやじの志に賛同し、見返りも考えずに動いてくれている方たちがすでにいらっしゃるんです。ここで自分らが動かんと笑われます」
「あ?敦以外に?そうなんか?」
「ええ。若い人たちが頑張ってくれてます」
「二ノ宮の兄弟。すまんが力になってくれ。頭下げるぜ」
「おいおいやめてくれよ。兄弟。ちっとかしらの腹ン中聞きたかっただけだ。すまんかったなあ。住友」
「いえ、おじき。ありがとうございます。これからも教えてください」
一方。
鹿島、比留間の『シノギ』を吸収した世良義経は忍の情報を集めながら次の展開を考えていた。兄である義正の言葉を思い出しながら。オンラインで格闘ゲーム『ストリートアライブ』をプレイしながら。
「くっそが。まーた敗けちまったよ。それにしてもこいつつええなあ。誰だよ。『RINATAN』って。『りなたん』って女か…?」
実は『RINATAN』はたなりんのハンドルネームであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます