第217話お値段以上
「じゅう、きゅー、はち、なな、ろく、ごー、よん」
「待ってくれ!」
愚連隊連中の中から一人の男が飛び出し、間宮の前で土下座する。
「あ?お前なに?」
土下座したまま男が答える。
「桐山さんも瀬尾さんも俺らにとってはよく面倒をみてくれてる大切な人たちなんだ!けじめは俺がうける!だから桐山さんと瀬尾さんは見逃してください!お願いします!」
土下座したまま頭を地面に擦りつけながら懇願する男に桐山が叫ぶ。
「慈道!てめえ!なに勝手こいてんだ!殺れ!殺っちまえ!」
「いえ。桐山さん。自分らはこれ以上お二人が…、そんな姿は見たくないんです…」
「慈道ぉ!」
思わぬ展開に間宮が言う。
「タイムイズマネー。だがお値段以上って言葉もある。お前、『じどう』つうのか。いいよ。そのままツラあげろよ」
間宮の言葉で土下座の体勢は崩さず顔を上げる慈道。間宮の質問が始まる。
「お前、さっき『ケジメは俺が受ける』って言ったよな」
「はい」
「へえ。でも一兵隊が責任取るつっても、どうすんの?」
「自分はこの辺を仕切ってる半グレの頭をやってます」
「へえ」
そう言って『サランラップ』の箱を眺めながら続ける。
「こういうのって捨てる時にちゃんと分別しないといけないって常識だよなあ。ゴミ回収の人がうっかり掴んで怪我したら大変じゃん?」
そう言いながら箱から刃の部分を剥がす間宮。そしてその刃を慈道の真ん前へ放り投げる。それを見てすべてを察した慈道。左手でサランラップの刃を握り締め、右手でそれを思い切り引き抜く。
「グッ!!」
左手から血が流れるも激痛を堪える慈道。
「ほお…。気合入ってんじゃん。慈道君。一つ聞きてえ」
「なんでしょう」
「あんた、自分より弱い奴を『アニキ』って呼べる人?」
間宮の質問に黙り込む慈道。
「慈道ぉ!殺れえ!」
「うるせえよ」
喚き散らす桐山の股間へ再度蹴りを入れる江戸川。
「やめてください!」
「それじゃあ答えになってねえよ。今、あんたはあんたが考える以上に究極の選択を迫られてる。答え次第でこの場をあんたが救うことになるかもしれないよ。逆だと時間オーバー分の利子を上乗せだ。さあ、だんまりは終わり。思ってることをそのまま言えばいいんだよ」
間宮の言葉に慈道が口を開く。
「俺は…、『強さ』にもいろいろ種類があると思います。あんたたちみたいな圧倒的な『暴力』もその一つかと。少なくとも俺らは桐山さんや瀬尾さんの下で動いてるが盃とかそういうのは受けてない。でも普段から世話になってきたのもあります。桐山さんや瀬尾さんがそう呼べと言うなら俺らは強い弱い関係なく『アニキ』と呼ぶでしょう」
「ふーん」
「左手で足りなければ右手もやりますんで…」
そう言ってサランラップの刃を今度は右手で握り締める慈道。
「やめろ」
間宮の言葉を聞き、いったん動きを止めるも思い切り左手でサランラップの刃を引き抜く慈道。そして激痛を我慢しながら両掌を間宮へ見せる慈道。
「これが自分なりのケジメです…。桐山さんや瀬尾さんを病院へ…」
「あんたいい根性してんね。俺の言葉を無視してそれでケジメのつもりかい。ふーん。まあいいや。慈道。あんた俺の下につきな。少なくともそこに転がってる二人よりかはいい思いさせてやんよ」
「…すいません。今ここで簡単にお答えすることは出来ません…」
「合格」
「…?」
間宮の一言に不思議そうな顔をする慈道。
「あんたはこの辺の顔なんだろ。そしてこの状況でも簡単に尻尾を振らねえ。ほら、三国志でも捕虜になってもつええ奴ほど簡単に仲間にならねえだろ。よええ奴ほど簡単に寝返るじゃん。いいよ。そこの二人を病院へ連れて行っても。その代わりあんたにはここに残ってもらう。まだ話したいことがあるんでな」
『身二舞鵜須組』若頭・小泉のラインアカウント乗っ取り。組の名前を名乗り刃物を抜いた『身二舞鵜須組』若い衆・桐山。そして瀬尾から受けた数発のパンチ。そしてこの辺を仕切る半グレ集団の頭と名乗る慈道を捕虜としてこれからじっくり話をする。ほぼ間宮の目的は十分すぎるほど達成した。
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