第216話たいむいずふみえ

「ふーん。じゃあ二十四時間体制ってわけか」


「はい」


「それで。交代するタイミングとかあんの?」


「はい。一人十二時間で交代しながら三人の組員で回してます。朝九時と夜九時です」


「つーと、二十四時間体制でもガードは一人?」


「はい」


「トイレとかメシは?」


「はい。トイレは普通に行ってらっしゃいます。食事はそれぞれが持参されてますね」


「その三人の組員ってのはこの写真の中にいるか」


 受け取った『肉球会』組員の写真を見て答える。


「あ、います!この三人です」


 山田、京山、末森、この三人の写真を選んで答える。


「なるほどね」


「それでなんですが…」


「なんだ」


「…例の『動画』なんですが…。こうやって『ヤバいこと』に協力してるので…」


「あ?『協力してるので』?それが?」


「あ、いえ…」


「そうだなあ…。今回の件が上手くいけば返してやってもいいぜ」


「ホントですか!?」


「ただし、上手くいけばの話だ。そうしたいなら全力で協力しろや」


「は、はい!」


 間宮率いる半グレ集団『模索模索』に飼われていた『飼い犬』たちは『模索模索』が割れようが間宮たちの『飼い犬』のままであり、大きな資金源でもある。病院関係者の男も『飼い犬』の一匹であった。『飼い犬』に指示をだしているのは忍。間宮が不在の間に『藻府藻府』を潰し、『肉球会』にも大きなダメージを与えておく。『藻府藻府』は軍紀がやるだろう。その間に自分は『肉球会』を、と。そして今一番狙いやすいのが入院中の裕木である。裕木は自分が始末し、罪はすべてこの『飼い犬』に押し付ける。動機なんかはいくらでも作れるだろう、と。病院のトイレで入院服に着替え眼鏡をかけ、喫煙スペースでタバコを吸い、食堂で食事をとりながらその機会を待つ。





「とりあえずお前は今すぐ病院へ行け」


 三原へ指示を出す間宮。


「え?病院?なんで?」


「そこの瀬尾さんから顔に何発かもらっただろ。鼻血も出てる。しっかり診てもらって『診断書』を書いてもらえ」


「『診断書』?」


「ああ。ガキ同士のケンカじゃねえじゃん。俺ら『ヤクザもん舐めたらどうなるかうんちゃら』って言われたじゃん。ヤーさんが堅気の俺らにケンカ売ってきて、刃物出して、殴られて血が出てる。まずは証拠をしっかりと残さないとダメじゃん。そのための『診断書』」


「なるほどね。じゃあ俺はいったんここからふけるぜ」


「おう。マッポに『被害届』とかはまだいいよ。それは『身二舞鵜須組』のケジメしだいにすっから。おう、桐山さんよお」


 この場を出ていく三原を見送りながら股間を両手で抑えながらうめき声をあげている桐山に話しかける。天草が桐山に履き捨てる。


「なんだよ。ちょっとキンタマ蹴っただけだろ。あ、なんかジャンプしたり後ろから叩いてもらうと楽になるって聞いたことがあんよ」


「…こ、殺す…」


「あ?『殺す』?そんな恰好で言われるとさらに怖くて俺うんこまで漏らしちゃうよ。漏らしたらどうしてくれんすかあ。桐山さーん」


 そしてスマホを取り出し電話をかける間宮。


「どうも。間宮です。昨日はどうもありがとうございました。小泉さん。素敵なホテルまで用意していただき。ええ。はい。それでちょっとお話がありまして。今、そちらの若い方ですか。桐山さんと瀬尾さんにホテルの外で大勢の手下を引き連れて待ち伏せされまして。ええ。ホントです。理由は分かりませんが自分らをそのまま囲んで知らないところに連れていかれものすごい剣幕で刃物を出されまして。ええ、はい。ホントです。それでうちの一人がちよっと血が出てましたんで今病院へ行かせまして。ええ、はい。これって『身二舞鵜須組』さんの総意なんでしょうか?」


 それから短い会話が続き電話を切る間宮。残った愚連隊連中へ向かって言う。


「おう。これから『身二舞鵜須組』の若頭を勤めてらっしゃる小泉さんと俺の話になる。お前ら今この場で決めろ。このままチンポ押さえてらっしゃる桐山さんや『サランラップ』でよく切れる瀬尾さんについていくか。まあ『身二舞鵜須組』がお前らをどう処分するかは知らね。俺につくって言うならまとめて面倒見てやんよ。俺ら小泉さんの大事な客人っすからね」


 ざわつく愚連隊連中。


「…なにしてんだ!お前ら!殺れ!さっさとこいつらを殺っちまえ!」


 まごまごして決めかねる愚連隊連中。間宮が言う。


「お前ら『踏み絵』って知ってる?」


「早く殺れ!殺っちまえ!」


 股間を抑えながら桐山が叫ぶ。


「そんなカッコいい体勢で言われても逆に気合入らんでしょう。お前ら、『踏み絵』だよ。『踏み絵』知らねえの?『三国志』には出てこねえが応用だよ。抜けてえ奴は抜けていいよ。ただ、俺らにつく人間はこの桐山さん?と瀬尾さんにしょんべんぶっかけろよ」


「は!?てめえぶっ殺す!ほら!殺れ!今すぐこいつらを殺れ!」


「うるせえよ。少し黙れよ」


 江戸川がエンジニアで桐山の横っ腹を思い切り蹴り上げる。


「ガハッ!」


 そして仰向けになり片手で蹴られたわき腹をもう片手で股間を抑えている桐山の股間をエンジニアで手ごと思い切り蹴り上げる江戸川。


「タイムイズマネー。十秒以内に決めろ。じゅう、きゅー、はち、なな」


 道具を捨てる音がする。そして股間に手をやる男たち。桐山の叫び声が虚しく響き渡る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る