第215話さらんらっぷ

 天草も元『藻府藻府』である。京山仕込みのケンカを叩き込まれている。そしてドスであろうが包丁だろうがナイフだろうが『不意打ち』専用のものであると知っている。対峙した相手に抜いたドスは単なる威嚇でしかないことも。案の定、桐山がいくらドスを振り回そうと天草はそれをしっかりと見てかわす。『蜜気魔薄組』先代である若林が不意討ちでめった刺しにされたがようはそういうことである。


「逃げてんじゃねえぞ!」


「てめえバカかよ。だって刺さるといてえじゃん。きりやま『さん』」


 ドスを振り回しているため周りの愚連隊連中も下手に加勢できない。


「いててて…。ん?おい、お前のせいで鼻血出てるやんけ」


 瀬尾のパンチを顔面に数発もらった三原が掌で顔を触り、鼻血を確認しながら言う。そして立ち上がろうとする三原めがけて思い切りけりを入れる瀬尾。それを片手でキャッチする三原。


「あんま調子に乗ったらあきまへんで。瀬尾さん。サービスタイムは終了っすわ」


 そう言って掴んだ瀬尾の足を思い切り引っ張る三原。バランスを崩した瀬尾のもう片方の足を空いている方の手で払う三原。そのまま操られるように床へ倒れこむ瀬尾。そしてそれを逃さず無駄のない動きで素早く三原が瀬尾にまたがりマウントをとる。そして拳を顔面に真上から叩き込む。三原の邪魔をさせないよう間宮と江戸川が愚連隊連中に睨みを利かせる。結果、勝負はすぐにつく。顔の原型が分らないぐらいになった瀬尾。逆に桐山のドスへと突っ込み、ドスの攻撃をかわしながら桐山の懐に入り脇でドスを持った手をガッチリと挟み込み、ロン毛を振り乱しながら桐山の顔面にチョーパンを数発叩き込み、本能的に桐山がドスを持っていない手で顔を庇おうとした瞬間に渾身の膝を桐山の股間にめり込ませる。


「ああああああああああああ!」


「あーあ、あれは潰れたなあ」


「かもな。てかあの二人あんなもんだったっけ」


 そしてここから間宮が仕切る。


「おい。谷口くーん。『ラップ』ある?『サランラップ』」


「え?」


「だからよお。『サランラップ』はあるかって聞いてんの。二度言わせんなよ。谷口君よお」


「あ、は、はい!」


 店の厨房から『サランラップ』を持ってくる大袈裟な包帯姿の谷口。そしてそれを間宮へ手渡す。そして三原にのされた瀬尾の片腕を掴み言う。


「君らさあ。聞いてたよね。『本職舐めたらどうなるか』なんちゃらって」


 そして『サランラップ』のギザギザの歯の部分を瀬尾の腕に押し当て、一気に引く。


「ぐあああああああああああああ!」


 瀬尾の腕から鮮血が飛ぶ。


「これって『のこぎり』と変わんねえんだよ。知ってた?」


 圧倒的暴力を目の当たりにした愚連隊連中は何も言えない。動けない。リーダー格である本職二人が瞬殺され、挙句の果てに『サランラップ』で腕を切られおびただしい量の血が流れているのを見さされれば当然である。そして言う。


「君たちにも特別『三国志』の面白さを分かりやすく教えてあげよう」


 間宮の頭の中での『身二舞鵜須組』若頭・小泉を潰す選択肢に『飼う』選択肢が増える。





「いやあ、組のためにもはよう復帰せなあかんなあ」


「ええ。補佐がいない間も何とかかしらを中心に皆で気張ってますんで。それに医者の先生も補佐の回復力に驚いてました。もうすぐだそうで。おやじも補佐のことを心待ちしてますんで」


「せやなあ。だいぶノンビリさせてもらったからなあ。それにしてもこの『進撃の巨人』はおもろいな。読んどったら時間なんかあっという間や。これ続きはまだまだあるんかい」


「え、前に持ってきたやつ、もう全部読まれたんですか?」


「当たり前やがな。続きが気になってずっと読んどったわ」


「じゃあ早速明日にでも持ってきます」


「すまんな。学。それとガードはもうええから。わしなんかよりおやじの方につけ」


「いえ、いけません。これはおやじからキッチリ言われてますんで。退院するまでは蟻一匹もモハメドアリたりともここには入らせません」


 間宮にアイスピックでめった刺しにされ、街の病院に入院中の裕木のガードに交代でついている『肉球会』若い衆。今日の当番の山田が個室の中で裕木とそんな会話をしている中、同じ入院患者を装い裕木のクビを狙うものが。

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