第213話『キレ』がいいんす

「さあ。知らね。宮部んとこに新しいのが入ったんじゃねえの」


 そう答える間宮。


「そうですか」


「つーかあれだろ。マシマシがやられたのってあの『真剣白刃取り』のやつじゃね。あれって宮部じゃねえの」


「ええ、そうですが」


「あれってトンキの駐車場だろ。『宇佐二夜』の溜まり場じゃねえの。誰かカメラ回してる奴とかいた?」


「いえ。軍紀と見てましたがそれらしい動きをしてる奴はいませんでした。『宇佐二夜』の数が相当集まってましたんでスマホで撮ってた奴がいたのでしょう」


「ふーん。ま、いいや。それより忍は軍紀とつるんでんだ」


「いえ、つるんでるわけではありません。比留間とマシマシはどうせ早かれ遅かれだと思いましたんで。こっちは『藻府藻府』の馬鹿どもの動きを完全に把握してますんで」


「あ、そう。じゃあ眠みいんで」


「はい。失礼します」


 そしてスマホをベッドの上に放り投げバスルームでシャワーを浴びる。


(つーか、あの小泉のおっさんよお。恥かかすような宿をとるなってほざいときながら禁煙かよ…)


 バスルームに備え付けられた高級ボディソープで体を洗い、高級シャンプー、リンス、コンディショナーで髪を流す。


(田所つったらあの7・3のパンチのおやじだろ…。そしたらあの駐車場には飯塚もいたはず…。『肉球会』を破門になった奴があんなパンピーの兄ちゃんと何を…。ツイッターは宮部のアカウントだろうがあの動画を撮影してたのは…『藻府藻府』のメンバーじゃねえ。『藻府藻府』は動画撮るより誰ぞをぶん殴るのが好きなはず…。忍も軍紀も不自然なものは見ていない…。新入り?あの7・3と飯塚が『藻府藻府』に?)


 バスルームのシャワーを浴びながら考える間宮。ふと蛇口の温度を示す赤と青の目印に目をやる。


「熱いのは苦手ってか…。京山さんよお…」


 バスルームを出た間宮は部屋に用意されていたバスローブを羽織う。そしてこの街で購入した小型の高性能ゲーミングパソコンの電源を入れ、火の点いた煙草を咥えながら部屋の大型テレビにHDMIケーブルで繋げこれまでこの街で集めた情報が詰まったスマホのデータを整理する。数台のスマホに仕込んだラインライトも消されないようスクショをしっかりと撮る。そしてそのまま煙草の灰を部屋の冷蔵庫にあったペットボトルの水を半分捨てて灰皿替わりに使う。一通りの作業を終えてからスマホを鳴らす。数コールで相手が出る。


「あ、伊勢さんですか。今いいっすか」


「お、どうした。お前んとこの誰ぞがわしんところへ来るんか?」


「あ、いえ。それは本人次第っすね。それより予定がかなり早まりそうなんで」


「小泉のおっさんを消す算段が整ったか!?」


「まあそんなとこですかね。『片方』の方は」


「ほう。そっか。で、もう『片方』の方はどや?」


「うーん、時間の問題と運ですかね」


「ええからなんぼでも暴れんかい。ケツもてめえで拭くんだろ。間宮『さん』よお」


「…さあ。俺は『キレ』がいいっすから。伊勢さんは〇〇の舌で人間ウォッシュレットっすか」


「わりいがそういう趣味はねえ。だがお前はやりそうだな」


「じゃあそういうことで。お疲れっす」


 翌日。ホテルを遅くに出る間宮たち四人。煙草を吸いながら街をぶらつく。そしてホテルから少し離れた場所で待ち伏せしていた十名近くの手にそれぞれ道具を持った男たちに囲まれる。そしてその男たちを搔き分けるようにジャージの二人組が。


「おお、兄ちゃんたち。こないだはえらい世話になったなあ。ちとツラ貸してもらおか。まさかと思うがわしの招待を断らんよなあ。ええ!ごるあ!」


「逃げたら『ブスッ』といくで」


 ジャージ二人組の言葉に思わず笑みがこぼれる間宮。


「おい。どうすんだよ。俺、ビビッてしょんべんちびっちゃうじゃんかよお」


 パンチパーマの江戸川。そして間宮が言う。


「いいねえ。あんたら。仕事が早くて。運もいい。俺」

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