第205話酒がダメなんでオレンジジュース

 飯塚から編集した動画のサンプルをラインで受け取った宮部。


「すごいですね!よく撮れてますよね!」


「でしょー。これは田所のあんさんが『うちのチャンネル』では使わないから宮部っちによかったらって」


「いいんですか?」


「大丈夫大丈夫。好きに使っていいよー。『完全版』と言うかそういうのは尺が長いから今度USBに入れて渡すよー」


「ありがとうございます!うちのメンバーにも早速見せますね。今度近いうちにUSB持参しまーす」


 そしてツイッターにて『真剣白刃取り』動画が投稿され、瞬く間にバズる。


「これ、『藻府藻府』の宮部さんじゃね?」


「すげえ!ガチ『真剣白刃取り』キターーーーーー」


 どんどん引用RTやリプがつきながら拡散される動画。その再生数は『あ』っという間に十万を超えた。そしてさらにバズる。プロフィールには「珍しいものを撮影してます」と書かれたアカウント。アカウント名は『ネコパツ』。宮部の作ったサブ垢である。


「何かのドラマの撮影をたまたま撮らせてくれました」と書かれた『真剣白刃取り』動画の呟き。いい角度で宮部と鹿島の顔は見えそうで見えないその動画。しかしその『真剣白刃取り』はガチにしか見えない。それに『藻府藻府』の特攻服で見る者が見ればすぐにそれに気付く。


「AMAZING!  #SHINKENSHIRAHADORI」


 海外からも引用RTが。拡散が止まらない。もちろん編集でジッポライターが見えないものを使っている。漫画や映画の世界の中でしかあり得ないと思われている真剣白刃取りの実写版である。ドラマの撮影と言っているが『藻府藻府』の特攻服がそれを『ガチ動画』であると証明している。


「どうせ編集だろ。はいはい。乙」


「乙じゃねえよ。『藻府藻府』の特攻服が見えねえの?お前。にわか乙」


 こういうバズりには必ずアンチコメがつくが圧倒的多数がそれを否定し、『ガチ』動画であると声をあげる。


「おいおい。どんどん再生数増えてるじゃん。止まんねえぞ」


「まとめサイトまで早くも出来てるぞ」


「で?これって宮部のアカウントだよな?今、再生数はどうなってるの?」


 いつものように集まった『藻府藻府』メンバーがスマホを眺めている宮部に聞く。


「ああ。初めてみたよ。こんな画面。ものすごいスピードでアクティビティが増えてってるわ。動画再生回数は今、六十万を超えてる」


「へえー。これがユーチューブだったら…。六万ぐらい入ってくんじゃね?」


「さあ。どうなんだろな?」


「『族チューバー』いけんじゃん」


 増え続ける再生回数。反応はいたるところで起こる。


「田所のあんさん!すごいですよ!」


「え?どうしたんすか?」


「田所のあんさんが編集したあの動画です!」


「え?あの動画がどうかしたんすか?」


「これを見てください!」


 そう言ってスマホで宮部のアカウントのツイートを見せる飯塚。


「あ!これは!え?この再生回数77万6432回ってガチっすよね?」


「そうですよ!ガチです!ユーチューブではなくツイッターなんでお金は貰えませんが。それでもすごい『受けてる』んですよ!」


「う、『受けてる』んすか?へえ…。でも実際に自分が撮影して編集した動画がこんなに『バルス』ってるのを見ると実感ばりわきっすね」


 『バルス』ってる?ああ、あれのことねと思う飯塚。と、同時に、神内さんの教えは分かりやすい!とも思う飯塚。


「とりあえず健司に電話しておやじに見てもらうよう伝えるっすね」


「はい!凍結の恐れがあるんで早く見てもらいましょう!」


「凍結?すか?」


「ああ…、後で説明しますんで!今は急いでください!早く早く!」


「あ、はいな」


 そしてここでも。


「間宮さんよ。飲んでるか」


「ええ。自分、酒がダメなんでオレンジジュースですけど」


「ほらほら。お前らもこのお兄さんはすごいんやで。もっとサービスせんかい」


「はーい」


 『身二舞鵜須組』若頭小泉と高級クラブで飲んでいた間宮たち。


「ねえ。お客さん。知ってます?」


「え?何を?主語がないから知らねえ」


「すいませーん。これですよ。これ」


 そう言ってホステスが『真剣白刃取り』動画を間宮に見せる。すぐに自分のスマホでもそれを確認し、笑いながら三原たちにもそれを教える。


「おいおい。宮部とマシマシの馬鹿じゃねえの?これ」

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