第206話おふざけ弾丸取り

「マジだ。つーか何これ?」


「誰が撮ってたんだ?」


 江戸川や天草も動画を確認する。


「ん?どうした?なんやなんや?」


「いえ、小泉さん。ちょっと知り合いがツイッターでバズってるだけです」


「そうなんか。ちょっとわしにも見せてくれるか」


「小泉さんのスマホでも見れますよ。捨て垢とか持ってません?」


「あ、わしはそういうのはやってないから」


「これですよ」


 そう言ってスマホを小泉に手渡す間宮。


「ほー、この動画か。えらいバズってんなあ。『真剣白刃取り』やんけ。これって『ガチ動画』かいな」


 間宮から受け取ったスマホの画面でそれを確認しながら、タバコを咥える小泉。すぐさま隣のホステスがライターを差し出す。間宮も自分のツイッターアカウントなどバレてもいいアカウント、個人情報も見られていいものしか入れてないスマホをこの場で使っている。


「ガチだと思いますよ。それ以前にそのポン刀振り下ろしてる奴と『白刃取り』してる奴は自分らとちょっと関係がありまして」


「なんや、知り合いか」


「そんなもんですね。友達の弟の知り合いとか。そんなレベルですが」


 つい先日まではラブホに泊まり、この街で暴れ倒していた間宮たち。ついさっき『身二舞鵜須組』若頭である小泉とバッタリ会った間宮たちは接待がてら小泉の行きつけである高級クラブへ招かれていた。最初にぶっ飛ばしたジャージたちは下っ端だったのか。それとも了解済みなのか。それも分からずただいつも通りの小泉の態度と誘いに乗った間宮。


「はっはっは。お前ら。このお兄さんはこの動画の人たちと知り合いらしいで。今度会わせてもらえや」


「ホントですか!?」


「お願いしまーす♡」


「でもこれ、どうせ『やらせ』っすよ」


「えー、そうなのお?」


「え?お姉さんたちってガチで『真剣白刃取り』が出来ると思ってます?これは『不真面目白刃取り』って呼んだ方がいいと思うよ。こんなんでいいなら『おふざけ弾丸取り』も出来ますよ。何かのドラマの撮影って書いてるし」


「え?じゃあ俳優さんなんですか?」


 それを聞き、肩で笑いながら間宮が答える。


「さあ。自主制作でしょ。ドラマの撮影って書いた方がモテると思ったんじゃないっすか」


「えー」


 頭の悪そうなホステスたちが口を揃える。


「あ、それで間宮さんたちは今、この街で遊んでるんやって?」


「ええ。こいつらとたまには旅行もいいかなと」


「どこに泊まっとる?」


「その日の行き当たりばったりなんで。ラブホとかです」


「あちゃー。先にわしの方へ連絡せんかい。ええとことったるがな」


「それが…、すいません。前にラインを交換していただいたんですが…。新しい機種変で引継ぎに失敗してしまい。すいません。もう一回ラインアカウントを作ったんで交換してもらってもいいですか?」


 タバコを咥えながら、隣のお姉ちゃんを抱きながら、酒を飲んでいい気分の小泉。


「そうなんか。それはあかんのお。ええで。ラインの交換やな。どうやってやるんやったかのお。確かQRコードを…」


「ええ、こっちのスマホで読み取りますんで。小泉さんのQRコードを表示させてもらえませんか?」


 そしてタバコも灰皿へ押し付け、隣のお姉ちゃんの方に回した手と違う方の手でスマホを弄る小泉。隣のお姉ちゃんへ聞きながらラインのQRコードをなんとか表示させる。


「これでええんか?」


「はい。ちょっとお借りしますね」


 ここから間宮が『悪魔の所業』をやってのける。


「あれ?」


 間宮はラインのメインアカウントなど持たない。どんどん変えるし、使えるものは残す。そして使い分ける。小泉に教えたアカウントは消している。『ラインライト』で小泉のQRコードを読み取る。そして自分のサブスマホのラインライトを小泉のラインアカウントでログインすることに成功する。そして同時にさりげなく小泉のラインアカウントへの通知。『ライン』からの『他の端末でラインにログインしました』のメッセージを消去する。そして先頭に表示されている『ライン』からメッセージがあったこと自体も削除する。両腕でそれらの作業を一瞬で終わらせる。そして言う。


「すいません。自分は機械がちょっと苦手でして。失敗しました。もう一回小泉さんのQRコードを表示させてもらっていいですか?人の携帯を勝手に弄るのは失礼かと思いますんで」


「おいおい。間宮さんとわしの仲やろ。あ、すまんすまん。機械が苦手やったんやな。頭ええのになあ」


「すいません。興味があるものだったらあれですが…。オタクみたいなのはちょっと…」


「はっはっは。まあええがな。おい、もう一回あの画面出したってくれるか」


 間宮からいったんスマホを受け取り、隣のお姉ちゃんへそう言う小泉。


「小泉さんも頭は切れますのにスマホは苦手みたいですね」


「せやなあ。やっぱ分かるか。ガラケーの方がわしにはお似合いやで」


「きゃー。面白ーい♡」


 その後、もう一度QRコードを表示されたスマホを受け取り、しっかりと間宮のアカウントで「おともだち」となる。


「あ、出来ました。これで大丈夫です。よかったあー」


 今後、『身二舞鵜須組』若頭、小泉のラインが見放題になる。


「いやあ、今日のオレンジジュースは最高に旨いですね」


 そう言いながら間宮の頭の中では別のことを考えていた。


(あの動画を撮影した奴は恐らく…、目的は…)


 その間にもどんどん拡散され続ける『真剣白刃取り』動画。

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