第193話『勇気を持って』

「警察も公務員だ。充分な退職金も出る。その辺の一般企業のそれより高額でな。それでも人間てのは金に執着するやつはどこまでも執着するもんだ。そしてもうひとつ。警察OBってのはいかに融通の利く後輩がいるか。この名刺の男以外にも元マル暴、警察にも係はいろいろある。交番勤務で辞めるのもいる。手帳を失くしたマル暴がヤーさんにいじめられるのは昔の話。まあ、大手に天下りできなかったサツの中にはこういうので金を集める人間が多いのが現実。警察自体も『こういう存在』には頭を悩ませてるのも現実だが人のやることだからな。そしてこの名刺の男。堂島ってのは元警察学校のお偉いさん。それがどういうことか分かるか?」


「…、それだけ人脈、支配力がある。現場を動かせるだけの力があるってこと?」


「そう。何か不祥事を起こしたとしてもこいつに金を積めば揉み消すのは難しくてもかなり便宜は図ってもらえる。そうだな。例えば大手パチンコチェーンの面倒も見てるらしく。そこの店が違反を犯した。半年の営業停止がこいつに一千万積んだら三十日の営業停止に短縮だ。百八十日が六分の一。一千万なんざ台が千台あれば回収するのに二日もあれば十分。ま、売り上げだけの話だが」


「マジで?」


「ああ。だからこいつには月々金を払う価値がある。まあ保険みたいなもんだ」


「へえー。便利だねえ。いろいろ使えそうじゃん」


「フィクサーてのはいろんな種類がある。まあ、大物ほど自分から売り込んでくることはねえ。こっちが探し出すもんだ。そしてこういう人間には共通して弱点がある。分かるか?」


「うーん。バッティングとか?」


「違う。『短命』であることだ」




 名門『藻府藻府』には様々な伝説がある。その昔。まだ警察無線を簡単に傍受出来てた時代。聞こえてくる警察の声。


「えー、マル走―、マル走確認。〇〇通りから○○通りを走行中。二輪が十台。すべて三人乗り。全員、木刀、日本刀、鉄パイプ等所持。『勇気を持って』追跡するように」


 警察官も『勇気を持って』対応するようにと言われていた。


 単車に跨り『宇佐二夜』襲撃へ向かう十代目『藻府藻府』。


「たなりんは俺のケツに乗って。飯塚さんは新藤のケツに。田所さんはエコのケツに乗ってください」


 エコが単車を回して田所のそばにつける。


「オス!江古田です!田所さん!自分のケツにどうぞ!」


「お、ありがとう!メットは…、まあいいですか。緊急事態ってことで」


 宮部がわざわざ用意したヘルメットをたなりんと飯塚は受け取る。そしてたなりんに耳打ちする飯塚。


「(いいかい。たなりん。たなりんも普段は学校とかで『コイパツ』とかの話はしないでしょ?それと同じで宮部っちもそういうのはあんまり人前で言われたくないのね。分かるでしょ?)」


「そうなりでござるか?てっきり『エキストラ』の皆さんも同じ趣味を持つ方々かと…」


「(違うから!たなりんがプリントアウトした『せんらんアグラ』の『怒るが』さんのいけないイラストをラミネートしたのに『ぶっかけてる』ことを学校でばらされたらいやでしょ?)」


「それは!知られるとたなりんの名誉が終わるでござる!」


「(でしょ?それと一緒!気をつけようね)」


「うう…、後でちゃんと宮部っちに謝っておくでござる…」


「どうしました?飯塚さん?たなりん?早く乗ってください」


「あ、ごめん。じゃあよろしく」


 宮部の言葉で飯塚とたなりんもバイクの後ろにまたがる。


「たなりん。メットは?した方がいいぜ」


「大丈夫なり!『ぐらんどせふとおーとばい』では常にノーヘルなりよ!」


「そう?まあ、俺の運転なら大丈夫だと思うけど。新藤。そっちもいいか?」


「ああ。全員出れるぜ」


「じゃあ行くぜ。奇襲もくそもねえ。真正面から派手にいっからよお!よろしく!」


「オス!」


 走り出す『藻府藻府』。たなりんだけは「うーん、これって誰が撮影してんだろうなり?」と思っていた。

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