第192話でこ
「ふーん、警察OBねー。そういうのって聞いた時あるけどさあ。え、『マッポ』って言うの?『デコ助』って言うの?『サツ』っての?」
「なんでもいい。ちなみに『デコ助』てのは言葉でいうもんじゃねえ。周りに人がいる時に『こっち』がうるさいとグーでデコを触るのが本来の使い方だと教わった」
「へえ。なるほどねえ」
そう言いながら自分のおでこにグーを押し付ける義経。
「違う。おでこから生えた角を握る感じだ。まあいい。警察ってのをまずはよく知っとけ。まず現職とOB、つまりこういった名刺の人間の違い。現職には常に人事異動がある。現職のデカから賄賂を要求されることもある。まあ『見逃し料』だ。中にはどんな無茶をしようが俺に金を持って来れば目を瞑るってものも多い。そういう連中は法外な値段を吹っかけてくる。国からいい給料もらってるにも関わらず、だ。真面目な奴はこの仕事に向いてないと言える。それから警察って組織は管轄が違えば『国』が違うぐらいであることも知っておけ。ある意味ヤクザのシマと似ているとも言える。隣の管轄のことにあいつらは手出し出来ん。それが『警察のメンツ』ってやつだ。試しに交番へ行って隣の管轄での揉め事を相談してみろ。必ずこう言う。『管轄が違うんでその管轄の交番へ行ってください』とな」
黙って世良兄の言葉を聞く義経。世良兄が机の上のコーヒーを口に運び、新しいタバコを咥えて火を点ける。そして続ける。
「あいつらは正義の味方ではない。警察も職業のひとつだ。頑張りすぎても上から怒られる。バランスってもんがあるんだよ。『取り締まり強化月間』て言葉ぐらい聞いたことあるだろ?」
「年末とかの飲酒運転が増える時期とかの」
「そうだ。『交通取り締まり』だな。他にも『月間』てのはあるんだよ。まあ、そういう情報を流してくれるのもある。あと、さっき言った『バランス』。あいつらに『被害届』を出してもよほどのことがない限りそれを受理しない。分かるか?」
「さあ…」
「これは法律ではない。警察学校などで習う『犯罪捜査規範』てものがある。その六十三条には『被害届の受理』と記されている。義務なんだよ。でも実際は『相談』と何度も念を押してから話を聞く。そして『被害届』はよほどのことでないかぎり受理しない。受理すると捜査義務が発生するからな。六十二条だったか。義経、お前、110番通報と#9110番通報の違いが分かるか」
無言で「知ってるわけない」ことを伝える義経。それを察して世良兄が続ける。
「緊急性がないかぎり110番通報はしちゃあいけないんだよ。110番通報ってのは『義務』が発生する。まず現場へ行かなければならない。そして『その通報に対してどのように対処した』と報告義務が発生する。警察ってのは民事不介入なんだよ。それが隣の騒音などクソみてえなことで110番通報する馬鹿が多いんだよ。ドラマや映画で『警察を呼びますよ』とのセリフを聞くが意味ねえんだよ。そしてこの名刺の人間。つまりOBってやつだ。これは現職とはちょっと意味が違ってくる」
世良兄の授業は続く。
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