第194話バッチGo!

「ご迷惑をおかけして申し訳ございません。道を空けてください。道を空けてください。おらあ!『藻府藻府』だぁ!道空けろやぁ!混ぜるとキムチぃ!」


 単車を運転しながら拡声器で叫ぶ冴羽。赤信号だろうとお構いなし。『藻府藻府』メンバーの単車が通れるよう車止めをする。『藻府藻府』の旗は宗助が持つ。勝の単車のケツに乗り、男塾の塾旗みたいなのを丸太のような腕でしっかりと持つ。片手で。


「(撮影にしては…、ずいぶんとリアルなり…。えーと、たなりんが苦手とする人たちとまったく同じような…。エキストラの人たちはすごいなりね。『本物』とバッタリ会ったらどうするでござるか?)」


 まだ『藻府藻府』メンバーを宮部の友達か何かでユーチューブ用動画の『エキストラ』だと思い込んでいるたなりん。


「どう?たなりん?こういうのは初めてじゃね?」


 単車を運転しながら沿道の人たち、ギャラリーの視線を独占しながら宮部が後ろに乗っているたなりんへ話しかける。


「さ、さ、撮影にしてはすごいなりね!こんな体験はゲーム以外では初めてなり。リアルだとゲーム以上に気持ちいいでござるよ!でも大丈夫なりか?」


「何が?」


「いや、『本物』のこういう人たちにバッタリ出会ったらどうするなり?」


「ははは。うちに『上等』かましてくるところなんかそうそういねえよ」


「え?そうなりか?『エキストラ』の人たちとかも大丈夫なりか?」


「『エキストラ』?なにそれ?言ったじゃん。俺は族やってるって」


「え?(『俺YABEEE!』なり!『俺TUEEE!』ではなくこれは『俺YABEEE!』でござるよ!)」


「ははは。大丈夫大丈夫。俺の兄貴分であるたなりんは絶対守るからさ。出来の悪い末弟だけど約束する。絶対だ」


「てことは…。ほん、もの、でござる、か?」


「ああ。本物の族だよ。実は俺もすげえ迷ったんだ。たなりんのことは大事な『ツレ』だと思ってる。それと同じぐらいこいつらも同じ俺の『ツレ』だ。たなりんはこういう人種のことを『迷惑』な存在と思ってるかもとか考えたし。でもあいつらさあ。初対面でもたなりんのことを見た目とかで舐めたりしなかっただろ?」


「そ、そうでござる…。実はこのたなりん。こういう人たちに『偏見』を持っていたでござる。実際学校でも…」


「言わなくていいよ。一人じゃ何にも出来ねえくせに数でつるんで粋がって弱そうなやつをいじめたり金を要求したりする『クソ』みてえなのが一杯いるのも知ってるし。こいつらも頭は『バカ』だけど、そういう『クソ』みてえなことはやらねえし。もうすでにこいつらはたなりんのことを『ツレ』だと思ってる。たなりんもあいつらのことを俺と同じように『ツレ』として見てくれよ」


「え、あ、まあ。宮部っちがそういうなら…」


 たなりんは心の中でとても喜んでいた。学校では『まるおすえお』と呼ばれ少なからず『いじめられる』側の人間だった。怖そうな人間は例え弱い奴も数でつるんで粋がっていた。分厚い牛乳瓶の底のような眼鏡を馬鹿にされ。学校は残酷な場所である。心の中で、頭の中でたなりんはそういう『クズ』を何度も殺してきた。想像で。


「ご町内の皆様。道を空けてください!道を空けてください!この番組は『かおー』とゴランスポンサーの提供でお送りします。の、『ご覧スポンサー』ってなんの会社ですかー?三年目の浮気ぐらい多めにみましょう!開きなオールの『開きなオール』は麻雀でいうとこの何点オールなのでしょうか!?」


 拡声器を手にした田所のアナウンスに爆笑する『藻府藻府』メンバー。そして宮部の単車へとぴったりくっつけてきて並走する新藤。新藤のケツに乗っている飯塚がたなりんに叫ぶ。


「たなりん!大丈夫!?」


 飯塚の声に同じく『藻府藻府』メンバーと同じ十代のたなりんがいろいろと考えた後、結論を出したかのようにたなりんなりの晴れやかな表情で叫ぶ。


「兄者!最高でござる!これがファミコン版『水滸伝』なら高俅とその悪の手下どもはみんなでやっつけるなりよー!」


 そして運転しながら宮部が飯塚へ視線を送り、左手で親指を立てて『グー』を意味するゼスチャーをする。それを見てたなりんが叫ぶ。


「バッチGo!なりよ!バッチGo!」


 いつもなら心で突っ込む飯塚だが今だけは同じように叫んだ。


「バッチゴー!バッチゴー!」

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