第179話妹まろんちゃん

「お前、あんなケンカできんなら『三国志』できるよ」


「マジ?おい。しゃきしゃき案内せーよ。あと、『カレー』が飲める満喫な。あ?奢ってくれる?わりいな」


 この二人はヤバい!と思いながら二人のご機嫌を損ねないよう急いで満喫へと二人を案内するキャッチの男。


「あ、こちらです!こちらでしたらオールナイトパックで二千円です!」


「ここ?ネットも使えんの?」


「はい!個室でパソコンもございます!」


「だからグリンピース抜きで牛肉多めの『カレー』は飲めんのか?」


「あ、あのお…。『カレー』は別料金だと思います…」


「ああ?」


「まあまあ。いいじゃん。お兄さんが奢ってくれるんだからよお。会員証とか持ってんよね?」


「あ、一枚だけでしたら…」


「あ?一枚じゃ足りねえじゃん。五分待ってやっからその辺で『借りて』来い」


「いや…、五分では…」


「すぐ返すからよお。もう計ってるから」


「お前、五分で用意出来なかったら殺っちまうぞ。あ」


 急いで通行人に声をかけまくるキャッチの男。そして金を払ってなんとか時間は多少オーバーするもカードをもう一枚用意する男。


「おい。五分過ぎてんじゃん」


「まあまあ。お兄さん頑張ったもんね」


「それより本当に会員証は返してくれるんですよね?」


「あ?別に悪用なんかしねえし。後から紛失届出せばいい話だろ」


 そう言いながらキャッチの男を連れて漫画喫茶へ入る二人。


「前金になります」


 漫画喫茶の受付の若い男が言う。


「前金だって」


「あと『カレー』な」


 しぶしぶ四千円とカレーの料金を前払いするキャッチの男。


「あれ?お兄さんはオールナイトじゃねえの?」


「あ!僕は仕事中ですから!会員証も持ってませんので!」


 そう言って逃げるように店を出ていくキャッチの男。


「じゃあ俺、ちょい急ぐんで」


「ああ。俺はテキトーに時間つぶしてんよ」


 そして間宮は個室に入りパソコンの電源を入れる。スマホの持ち主が利用停止にする前に目的を済ませたい。アンドロイドのスマホ。中のデータをすべて抜き取る。『コピー』さえしてしまえばあとは手持ちの1テラマイクロSDカードに『移す』。そして通話履歴とラインを自分のスマホに写メで撮る。やたら通話している相手、頻繁にやり取りをしている相手。このスマホの持ち主の名前やどういった人間なのかが浮かび上がってくる。


「へえー。こいつ、この相手にはグループでは舎弟みたいに振舞ってるけど、陰で悪口ばっか言ってんなぁ」


 パシャリ。


 まだ利用停止にはならない。SNSをチェックする。DMを見る。アカウントによってリアルの知り合いなのかが分かる。そういうアカウントもすべて写メる。


 パシャリ。


 隠語を使っているがこのスマホの持ち主が薬物売買に関与していることに気付く。


 パシャリ。


「あちゃー。こいつ痛いねー。ヤクザもんの名刺を写メって自慢してるよ…」


 パシャリ。


 個人の携帯は個人情報の宝庫であり、セキュリティが外された状態で悪意のある人間の手に渡るとこういうことになる。それがのちに『大金』や『それと同等の対価』に変わる可能性が大いにあることを間宮はよく知っている。ほぼ必要なデータはすべて抜き取った間宮が個室を出て江戸川を呼ぶ。


「あ、終わった?」


「ああ。お前も飲み終わった?」


「おう。グリンピースどころかこの店の『カレー』はインスタントだぜ」


「普通そうじゃね?まあ、用事も済んだし出ようぜ」


 そう言って二人はオールナイトどころか一時間ほどで漫画喫茶を出る。そして用なしになったスマホをぶん投げる。GPS機能などが鬱陶しいからである。そして三原・天草ペアに電話する。三原の携帯を鳴らす。


「はいよ。そっちはどう?」


「まあ、とっかかりかなあ。そっちは?」


「天草がブチ切れてるよ。よええ奴しかいねえって」


「だな。そろそろ本職が出てくっから。『ヤクザ上等』でガンガンいってくれ」


「りょうかーい」



 一方。


「おい!たなりん!」


「どうしたでござるか?宮部っち?」


「『あれ』仕込んだのたなりんだろ!」


「ふふふ…。宮部っち。宮部っちもたなりんと同じ経験をしたでござるな?」


「たなりん…、勘弁してくれよ…」


 実はたなりんのいたずらで携帯に「なでなで目覚まし『妹まろんちゃん』アプリ」を勝手にインストールされ、夕方5時半にアラームをセットされていた宮部。いかつい恰好で『藻府藻府』頭として街にいた宮部のスマホから突然、『お兄ちゃん!起きて!起きてってばあ!ねえー、お兄ちゃーーーん!ねえってばあ!起きて!お・き・て!起きてよおー!起きてってばあ!』と大音量で妹ボイスが流れ出し、消音モードにすればいいものを恥ずかしさと焦りからそれに気付けず「どうやったら消せるんだ?」となり、画面にゲージがあり、画面を指で撫でることでゲージが溜まることに気付き、鬼の速さで画面をゴシゴシする宮部。そしてゲージが溜まり、『もー、やっと起きてくれたあ。なんか疲れちゃったあ。まろん、眠くなっちゃったあー』のボイスを最後にアプリが終了したことを確認した宮部。勿論、『まろんちゃんボイス』が流れ始めた瞬間、その場から猛ダッシュで人気のないところまで移動したのは言うまでもなかった。

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