第146話悪と純粋と不思議
「(ここで『仁義』チャンネルのことがバレるのはいろいろとまずい!てか『組チューバー』もバレてない!『ユーチューバー』って言ってるし。『ちゅーちゅーばー』って言ってたんですでは?いかーん!かえって怪しすぎる!うーん、猫のおやつに『ちゅーる』があった!『ぐみちゅーるだー』って言ったんだでは?いかーん!バレバレだ!そもそも前振りに『博徒でも的屋でもねえ』って言ってるし。それの対義語じゃなきゃあ…。うーん。『ゆうしゅうだー』、『血湯血湯だー』、『集中だー』って俺が集中しろ!)」
この間、時間にして0・5秒。そして飯塚が言う。
「おめえ、ラリッてんの?『チューバーファイター』つったんだよ」
「あ?」
そう言ってスマホでググる間宮。そんな間宮に飯塚が言い放つ。
「それもおもしれえなあ。ただ田所のあんさんも『肉球会』の皆さんもおめえみたいな連中なんかいなければと思ってる。いや、その存在すら許さねえつもりだ。今はそういう『輩』の存在を許してるがすぐにぶっ潰すぜ。そんな『先のない』小悪党を撮影してユーチューバーってのは食っていけるのか?そう思ってるならお前もそうとうお子様だぜ」
飯塚の言葉を聞きながら、スマホから流れる『チューバーファイター』を見つめ続ける間宮。そして不敵に笑う。
「くっくっく。あんた面白いね。飯塚さん。ま、いいや」
「俺からも質問だ。間宮君だったよなあ」
仕掛ける飯塚。
「あ?質問?何?」
「何故、健司を恨む?」
さっきまで飯塚を子ども扱いしていた間宮の表情が変わる。飯塚は続ける。
「何故だ。俺は健司との付き合いは長い。進む道は違うが今でも対等な『ツレ』だと思ってるしそういう付き合いを続けてる。あいつは『相手』を選ぶような奴じゃねえ。理不尽も言わねえししねえ。筋の通らねえことも絶対にしねえ。お前もあいつの背中を見てきたら分かるだろ」
「ああ。京山さんには『感謝』と『尊敬』しかねえ」
さっきまでのふざけた間宮はいない。飯塚も間宮の言葉にしっかりと向き合う。タバコを取り出しそれを口に咥える間宮。飯塚にもそれを差し出す。間宮から受け取ったタバコを飯塚も咥え、二人でそれぞれ火を点ける。煙を吐き出しながら間宮が言う。
「昔、京山さんがまだ『藻府藻府』の頭だった頃。俺はシャブに手を出した。ポン中の奴から『ビビってんのか』って言われて最初に打ったのが間違いだった」
そしてまたタバコを吸う間宮。飯塚も黙って間宮の言葉を聞く。
「飯塚さん。あんたさあ、『カルテル』って知ってるかい」
「いや。知らねえ」
「薬にもいろいろあってさ。『コカイン』ってヤバいんですよね。南米のコカイン戦争ってのがありまして。いろんな組織、まあそれを『カルテル』っていうんですが。うろ覚えっすが『大麻は握手で、コカインは拳銃で取引する』って言葉があるぐらいでして」
飯塚と目を合わさず、独り言のようにタバコを吸いながら続ける間宮。飯塚も真剣に間宮の言葉と向き合う。
「シャブに手を出してジャンキーになっちまう俺を救ってくれたのが京山さんだ。だから他の悪さはいくらでもしようが『薬』だけはやらねえ。前にあんたと初めて会った時。あの時も『薬』に関しては『蜜気魔薄組』が扱ってたことだ。トイレに流したのも別に『証拠隠滅』のつもりじゃなかったんすよ。俺も本意じゃなかった。だから前の『蜜気魔薄組』は俺が潰しました。今のあそこの組長にも『薬』はやらせねえっすよ」
「それはすげえことだと思う。でも…、だったら健司を恨む理由になってないじゃねえか。むしろ…」
飯塚の言葉を遮る間宮。
「あの人は変わっちまった」
「何言ってんだよ。健司は健司のままじゃないか」
「飯塚さん。あんたにゃ分かんねえよ」
間宮が顔を飯塚に向け、飯塚の目を見ながら吐き捨てる。悪党と純粋が同居する間宮の瞳。それだけで飯塚はもう返す言葉を失う。暫く二人の間に沈黙が流れる。間宮の瞳から健司や宮部が持つ『真っすぐさ』を感じ取る飯塚。そして間宮が最後に言う。
「飯塚さん。あんたは不思議な人だね。平凡だけどうちの連中が持たないものを持ってるように感じるよ。でも残念だ。次にあんたと会う時、俺はあんたを全力で殺りにいくだろうよ」
そう言って飯塚に背を見せその場を立ち去る間宮。飯塚は何かを伝えないとと思いながら何も口にすることが出来なかった。そしてそのまま間宮が見えなくなるまでその場に立ち尽くした。
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