第145話もんもん

「うーん。『企画会議』って楽しそうだと思ってたんすが…。重いもんすねえ。飯塚ちゃん」


「まだ二人だからいい方ですよー。僕が一人でやってた時は一人悶々としてましたからね」


「え?『紋々』すか。堅気っすよね」


「はい?」


 と言いながらグーグル先生に聞いてみる飯塚。


『紋紋』…刺青のこと


 なるほど…、と思う飯塚。と、同時に、この天然を上手く生かせればなあとも思う飯塚。


「今は芸能人や著名人もやってる人が多いですからねえ」


「え!?そうなんすか?飯塚ちゃん!?」


「はい。見れば分かるかと」


「うーん。入れ墨ってのは『その道で生きていく』と覚悟の意味で入れるものなんですよ。へえ…。今は堅気でも入れてるのを見ますが芸能人や著名人の方まで…。覚悟なんですねえ…」


「田所のあんさん…。『ユーチューバー』の話ですよ…。芸能人や著名人もやってる方が多いのは…」


「あ、そういうことでしたか」


 本当になんとかこういうノリを生かしたいなあと思う飯塚。と、同時に、計算でやってんじゃないの?とも思う飯塚。


「でも、こうして見てるとやっぱりチャンネル登録者が多いのは専門的なのが多いですね。あ、『元ヤクザ』の方のチャンネルもあるんですね」


「あ、ありますよ。やっぱり専門的知識がありますし、視聴者も見たいと思うんじゃないですか?」


「でも、これと同じことをしてもダメなんですよね。あれ?プロ野球選手の方のチャンネルもありますね」


「多いですよ。田所のあんさん。やっぱり専門的知識もありますし、元プロ野球選手ってことで最初からファンもいますからね」


「あ!」


「どうしました?田所のあんさん」


「いえ、このプロ野球選手。うちのおやじの後輩だと聞いてます」


「え!?」


「いや、うちのおやじは昔、野球やってましたんで」


 そうなんだ!神内さんは昭和の高校球児だったんだ!そりゃ根性ありますよーと思う飯塚。


「へえ。すごいですね。『仁義』チャンネルが有名になったら『コラボ』とかしてみたいですね」


「飯塚ちゃん。『コラボ』ってなんすか?」


「あ、人気ユーチューバー同士が共演して動画を撮ることです。テレビでも人気の芸人さんが共演したりするじゃないですか」


「あー、なるほど。あ!」


「どうしました?」


「いや…、パチンコの動画がすごく再生回数が多くて…。受けるんすか?」


「あ、パチンコ動画も人気出るとすごいですよ。今はライターさんもやってる方多いですからね」


「へえー。でも、うちのおやじも昔はパチプロだったって聞いてますよ」


「え!?」


 神内さんは幅広い!人生が幅広い!と思う飯塚。と、同時に、昔はパチンコも勝ちやすかったって聞くもんなあと思う飯塚。


「あ!」


「どうしました?」


「いや…、数学とかのチャンネルがありまして」


「あ、やっぱり専門的知識ですね。塾の代わりみたいなもんですね」


「でも、うちのおやじも東大合格したって聞いてますよ。ガチです」


「えええええええ!?」


 スーパーマンだ!神内さんは何でも出来るスーパーマンだ!天才だ!と思う飯塚。と、同時に、神内さんだけでチャンネルいくつも作れるんじゃないか?と思う飯塚。


「うーん。新しい引き出しってなかなか思い浮かばないっすね」


「まあ簡単にいけば苦労しませんからね。ちょっと休憩しましょう。僕、コンビニに行ってきますね。なんか買ってきましょうか?」


「あ、じゃあタバコだけいいっすか。飯塚ちゃん」


 そう言って千円札を数枚取り出し飯塚に手渡す田所。そして部屋をでる飯塚。


「(でも『肉球会』の人たちっていろんな意味で『達人揃い』なんだよなあ…。それを生かせれば何か撮れると思うんだよなあ…)」


 そんなことを考えながらコンビニへとテクテク歩く飯塚。そして足を止める飯塚。


「お久しぶりです」


 声を掛けられた飯塚は固まる。間宮である。


張られていた?ていうか家も特定されてる?何故俺のところに?様々な考えが頭を巡る飯塚。そんな飯塚の心を読みながら間宮はどんどん続ける。


「飯塚さんですよね。元『肉球会』の田所さんといろいろされてるようで」


 飯塚が漢を見せる。


「そっちこそいろいろやってるみてえだな。ツレの健司を狙ったのもお前だろ」


 意外そうな表情を見せる間宮。飯塚が吠えることは想定外であった。


「あれは俺じゃねえっすよ。『肉球会』と敵対するヤクザもんがやったことっすよ。だからその仕返しをあんたらがやったんじゃねえの。なんだっけ…、『藻府藻府』?あいつらとつるんでさあ」


「…で。今日はその仕返しか。俺をやりにきたのか?仲間がいるんなら全員呼べよ。勝てねえにしても健司の分ぐらいの『返し』はやれんぜ」


「まあまあ。飯塚さんが『お強い』のは十分分かってますから。あんまりビビらせんでくださいよ」


 今は普通である。例えシャバ憎だろうと飯塚も昔はヤンチャをしていた不良である。そんな飯塚が間宮と相対して感じる間宮のオーラ。元不良だからこそ分かるオーラ。今、自分は初めて『肉球会』の事務所へ行った時よりもビビってる。飯塚はそれを自覚した。それでもそれを相手に見せないよう気合を見せる。


「俺に何の用だ。たまたまだとは言わせねえよ」


 飯塚の心中を完全に読んでいる間宮は子供を相手にするかのように振舞う。


「トイレ行きます?」


「あ?」


「いや、ここで漏らされても…ねえ。近くにコンビニありますし」


「おい。あんま舐めんなよ」


「ははは。いいっすよ。誰も見てませんから。そんなにビビらせんでくださいよ。せんぱあーい。俺、あんたより年下っすよ。金も持ってませんからいじめてもいくらにもなりませんし」


「…。用がねえなら消えろ。用があるから来たんだろ。さっさとその用件を済ませろよ」


「そっすねえ。チャチャっと済ませましょうか。あんたと田所さん。『ユーチューバー』なの?」


 何故それを!?と思う飯塚。


「あ?なんだそりゃ」


 とぼける飯塚。


「いやさあ。ヤーさん相手に大暴れしたあんたらがね。『博徒でもねえ。的屋でもねえ。ユーチューバーだ』?って言ってたって聞いたからさあ。そしたらすべて辻褄が合うんですよ。ヤーさんのフロント襲って動画撮ればってね。そういうこと?」


 どうすればいい。間宮は『組チューバー』にまでは辿り着いてないがかなり核心まで自分らがやっていることを読んでいる。ここで『仁義』チャンネルのことがバレるといろいろまずい。飯塚は頭をフル回転させ次の言葉を考える。

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