第144話鍵屋

「まずはお前ら。このメンバー全員で集まることは今日で『一旦』最後としようか」


 タバコを咥えながら間宮が言う。そして続ける。


「忍、軍紀、世良、比留間、マシマシ。そして俺。この六人で天下を取るか。人数は減るか増えるか分かんねえ。ただ『始まり』はこの六人だ」


 表情を変えずに間宮の言葉を聞く五人の未成年。五人の悪党たち。間宮はタバコを灰皿に押し付け、続ける。


「まず、俺らは今後、一切無関係とする。いや、敵対を装うのはいい。ただつるんでるのはダメだ。連絡はマメにとる。ラインやメールはログが残る。『これ』を使え」


 そう言って間宮が十数台のスマホをテーブルに広げる。


「これは。誰の名義なんですか?」


「うん。俺らの『飼い犬』の名義。今は通信業者も新規客獲得のノルマも大変なのかねえ。金払って署名すれば『犬』でも契約できんだね」


 『飼い犬』とは『模索模索』のメイン資金源である弱みを握られた金持ちたちのことを指す。各々がテーブルに広げられたスマホを手に取り眺める。


「俺はアイフォンがいいなあ」


「ガラケーはねえの」


 新しいタバコに火を点け間宮が言う。


「それでもまだ『点』が『線』に可能性は残る。ログが残るやり取りは基本、SNSのDMを使え。それも捨て垢でね。あと、メアドもいろいろある。二十四時間で消える捨てメアドを使う。基本、連絡は対面が理想だ。けど先に言ったようそれも避ける。公衆電話やこっちで用意する固定電話をメインで使え」


「金の受け渡しはどうします?」


 マシマシ、本名鹿島が間宮に訊ねる。


「各自でバイトでも雇ってくれ。簡単だろ」


「ですね」


「シノギに関しては今までのやり方を基本続けるように。とにかく『飼い犬』を一匹でも増やするのが一番手っ取り早い。『鍵屋』とかその辺も小銭だけどチリツモだしな。その辺は上手くやってくれ。新しいシノギは俺が考えて試して使えそうなら回していくから」


「わかりました」


 『鍵屋』とは自宅の鍵を失くした人間からの要望で二十四時間体制、すぐに出張で鍵を開けて修理もするシノギである。『特定商取引法』を利用したグレーだが合法であり、一回の出動で十万円近い金を得ることが出来る。鍵を失くした人間は焦る。ろくに調べもせずネットの上位に載っている業者の『6000円~』の言葉を信用する。六千円など出張費で消える。iPadの『作業前にiPadの料金表を見て作業内容、料金の説明を十分に受けました』、『作業前に上記の特定商取引五条に基づく説明文書の内容を確認いたしました。こちらの作業を依頼いたします』の欄にチェックさせ、名前を自著させれば現金、もしくはその日には決済されて引き落とされるクレジットカードサービスで払わせる。否、渋々払ってくれる。鍵を失くすような人間が『特定商取引五条』など理解できるわけがない。ちなみに『特定商取引五条』はそれだけでは成立しない。四条の文面も必要になり、九条も合わせないと反論の余地は十分ある。ただ、そこまで理論武装して反論できる人間はいないと言っていい。『一度サインしたものは覆せない』と勝手に泣き寝入りしてくれる。『模索模索』は鍵を失くす人間を探すより弱者であろうものの自宅の鍵を意図的に狙っていたずらをした。『鍵屋』のSEOは『飼い犬』にやらせた。これは国や消費者センターに言っても『絶対』解決には至らない。『違法』ではないのである。


「軍紀。『あれ』をみんなに配ってくれる?」


「ああ」


 そして間宮、忍と同じく元『藻府藻府』の軍紀が大きな紙袋を五つ、テーブルに置く。


「なんだこれ。軍紀よお」


「あ、『藻府藻府』の特攻服だよ。それぞれに何着か入れてある。これでいいんだよな。間宮」


「ああ」


 そう返事をしながら紙袋から一着、『藻府藻府』のとっぷくを取り出す間宮。そして言う。


「いい仕事じゃねえか。軍紀。こりゃああの宮部ら馬鹿どもが着てるのとまったく同じだ。お前ら。今更こいつの使い方を説明する必要ある?」


 申し合わせたように忍が答える。


「これを着た人間は『表立って目立つ悪さ』をガンガンやれってことか…。ケツを拭くのは宮部らってことね」


「そういうこと。俺はこれから伊勢と『蜜気魔薄組』を使って『身二舞鵜須組』、とりあえずあそこの若頭…、小泉だっけ。あいつから切り崩す。世良、比留間、マシマシ」


「はい」


「お前ら見込みも素質も十分あるよ。忍や軍紀を食うぐらいでいけ」


「はい」


「じゃあとりあえず一旦解散。次にこのメンバーで集まる時は…」


「そうですね」


 間宮は半グレ集団『模索模索』に一人残り、五人の悪党を世に放った。

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