第128話もう一つの『キチガイ』

「前に『模索模索』を表と裏に分ける話したじゃないですか」


「言うとったなあ」


「あれ、ちょっと『甘かった』です」


「あ?」


「単刀直入に言います。伊勢さん。『こっち側』に来ませんか?」


「『こっち側』ぁ?落ち目の極道を半グレにスカウトか。おめえら。聞いたか。おやじの盃返して半グレになれとよ」


「伊勢さん。あんた大きな『勘違い』してるよ。いや、俺の考えが『甘かった』のと説明不足だわ。そもそもあんたらが『極道もん』になったきっかけってあるでしょ」


「あ?そんなもん決まっとるやろ」


「『暴力』で育ち、『暴力』で幅利かせて、『暴力』でものごとを通してきて。ガキのうちはそれでいいでしょう。社会に出りゃあ『受け皿』がねえ。それでも『暴力』を評価してくれる世界が一つだけある。Vシネで言うなら『美味い酒に美味いメシ』、『いい車にいい服』、『いい女』。そんなもんぽっと出の学生社長でもすぐに手にしますよ。それで組織のために『こき使われて』、『懲役行って』、『命取られて』。それが『極道』ですか。『シマ』ってそんなに大事っすか?俺は昔気質の『肉球会』より『蜜気魔薄組』を高く評価してんすよ」


 伊勢や『蜜気魔薄組』組員が間宮の演説を黙って聞く。そして間宮がズバリ言う。


「あんたらは『金でキチガイになれる』人種だ」


 今の間宮の言葉は『蜜気魔薄組』組長・若林の言葉より響く。さらに続く。


「今は『シマ』より『パソコンのマウスボタン』の方が『金』を生む時代っすよ。『身二舞鵜須組』の小泉は俺が食います。『身二舞鵜須組』もうちら『半グレ』が取り込むんすよ。別に『模索模索』の名前を日本中に知らしめる必要なんざ一ミリもありません。そういう『無敵の組織』をどんどん作ればいいって話っすよ。その足掛かりっすね。『こっち側』にゃあ『メンツ』も『筋』も必要ねえ。割に合わねえ法律も関係ねえ。そもそも『金』でしょ。まさか『名声』なんて寝言ほざくつもりじゃあないっすよねえ。別にいいっすよ。捨て駒の半グレ作ってそいつらに暴れさせましょうか。『蜜気魔薄組』さんがそいつらを懲らしめれば感謝されますよ。『正義のヒーロー』で表彰されますよ。伊勢さん。あんた、そういうのがお望みかい?」


「小僧。能書きはそれだけか」


 伊勢がそう言いながらタバコを取り出す。差し出されるライターの火に加えたタバコを近付ける。


「まだ足りません?」


 タバコの煙を大きく吐き出し伊勢が言う。


「足らんなあ。ただし。『身二舞鵜須組』の小泉をおめえが食うってところ。そこだけや。それをホンマにやるんやったら」


「やったら?」


「おめえの言う『キチガイ』をやったろうじゃねえか」




 そしてコージが大学病院で演じる。そして十代目『藻府藻府』の『力』を見せる。

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