第115話べびばんばんばん
「お、悪かったな。呼び出しちまって」
「いえ。先代の『呼び出し』には何があっても駆けつけますよ。京山さん」
人気のない場所、暗闇の中での会話。京山と間宮はさしで会っていた。
「おめえは『何』がやりてえんだ」
「それは『肉球会』若い衆の立場としてですか?それとも『藻府藻府』先代としての言葉でしょうか?」
「どっちでもねえよ。『京山健司』としての『言葉』だよ」
京山はタバコを取り出し口に咥える。間宮がすかさずライターの火を差し出す。それを制して京山が言う。
「いいよ。『火』ぐれえ自分でつける。それよりもう一度だ。おめえは『何』がやりてえんだ?」
「この国の頂点をとります」
間宮は無表情で言い切る。
「それは『藻府藻府』いや、今は半グレ集団『模索模索』か。『不良』としての頂点か?それともあれか。極道としての頂点か」
「はい。表と裏、両方の社会で頂点をとるつもりです」
「ほお…。間宮よお。さっきおめえは俺に『ライターの火』を差し出したよな。それがどういうことか分かってるよなあ」
「ええ。こっち側の世界は『縦社会』ですからね。まあ向こう側の世界は知りませんけど」
「そうやな。それでおめえは俺に『ライターの火』を差し出した。つまりは俺の『下』ってことや。『後輩』なんて言葉は使わねえよ。『下』だよ。『下』。『下』。そんな奴が『表と裏、両方の社会でてっぺん獲る』だと。おもしれえじゃねえか。お前ならやっちまいそうだな」
「京山さん。俺はいつだった真面目ですよ」
「知ってるよ。おめえの性格は。それでよ。『順番』がちげえんじゃねえか?俺が言いたいのはそこだけだ」
「『順番』とは?」
「おめえが『藻府藻府』を割ったのもええよ。宮部や新藤たちとの問題だろ。好きにしろよ。おめえの自由だ。そして『模索模索』を作ったのもええ。おめえの自由だわ。それで『極道』相手に暴れるんもええ。『極道』とつるむのもええ。おめえの自由だわな。だがよお」
一切表情を変えずにコンクリートに座っている京山の話を直立不動で聞く間宮。そして京山が続ける。
「何故うちの補佐を的にかけた」
そう言ってコンクリートに腰かけていた京山が立ち上がる。そして続ける。
「おめえは俺の『下』だろうがよ。だったら『上』である俺んとこに真っ先に来いや。いつでも遊んだるぜ」
吸っていたタバコを京山は『ペッ』と口から吐き出す。
「そうですね。京山さんがおっしゃる通り『かも』でしたね」
「『かも』じゃねえんだよ」
「かもねかもねそおかぁーもね。癖になっちゃうかもね」
「あ?」
「べびばんばんばん」
間宮の『おふざけ』を聞き流す京山。間宮の頭の良さは十分分かっている。
「おめえよお。また『シャブ』でも食ってんじゃねえだろな」
「いえ。それは絶対ありません。今の自分があるのは京山さんのおかげです。その京山さんとの『約束』を自分が破るはずはありません。もし破ったら『ケジメ』はきっちりつけますんで。で。『順番』の話ですが。その前にもういいですか」
「何がだ」
「『さん付け』には疲れたってことですよ。あ。京山よお」
今でも根強い裏社会の『縦社会』。京山の後輩であり『下』である間宮が先輩であり、自分の恩人でもあり、『上』である京山を呼び捨てにした。それが意味すること。間宮は京山に噛みついた。
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