第116話『おめえ、馬鹿だろ』

「あ。『もう一回』言ってくれるか?すまんのお。勘違いならあれやからのお」


「『きょうやま』つったんだよ。お前馬鹿か。頭だけじゃなく耳もわりいのか?」


「ほお…」


 昔の京山なら確認する前に『動いて』いた。速攻で目の前の間宮をボコボコにしていた。それが間宮には気に入らない。気に障る。


「あんた変わっちまったなあ。京山よお。昔のあんたは俺になんつった?『自分より弱い奴をアニキって呼べんのか?』って言ってたよなあ。あんたはもう『肉球会』で腐っちまったわ。今のあんたは俺には勝てねえよ」


「変わったのは『お前』もだろ。間宮よお」


 京山と間宮の間で沈黙が流れる。二人の間にはものすごい殺気が。


「そうかもしれないっすね。昔の俺なら、そしてあんたなら。今頃とっくにどっちかが、いや、俺の方でしょうね。地べたを舐めてるでしょうね」


「そういうこっちゃ。『極道』が『ガキ』相手にケンカは出来ねえ。分かるな」


「分かんねえなあ。ケンカにルールがあんのか。京山よお」


 京山のこめかみは破裂寸前である。


「今、俺がお前を殺したら『組』に迷惑がかかるだろうが」


「きょうやまああああああああああああ!」


 間宮も苛立ちがピークを過ぎ発狂する。そして続ける。


「てめえはいつから『計算』するようになったんだよお!昔のあんたが背負ってたのななんだよ!?『てめえの看板』だろうが!それが今は『肉球会』の『看板』かよ!『看板でケンカ』すんのか!てめえはああああああああああああ!」


「われえ。誰に言うとる」


「そこの目の前にいる『クソ野郎』にだよお!!!」


「俺が何かすればおやじが持ってかれる。『組織』ってのはそういうもんなんだよ」


「答えになってねえぞおおおおお!きょうやまああああああああああああ!」


「昔のてめえ相手ならいつだってしてやった。だが今のてめえは違う。『模索模索』の頭だろうが。てめえらは『極道』とつるんでやがる。その時点でおめえの『正論』は通らねえよ。おめえが背負ってる『看板』は何だよ。『模索模索』か?『蜜気魔薄組』か?それとも『身二舞鵜須組』か?『血湯血湯会』か?」


 バキッ!


 間宮の強烈な右ストレートが京山の顔面を捉える。それを瞬きせず、避けようともせず、正面で受け止める京山。そして間宮が言う。


「今の俺が背負ってる看板を教えてやるよ。『間宮徹』つう看板だよ。これなら問題ねえだろ。あ?京山よお」


「間宮よお…」


「あ?」


「これは通行人である京山健司と間宮徹。その二人がたまたま肩がぶつかってケンカになった。そういうことでええんやな」


 バシッ!バシッ!


 間宮の強烈な空中二弾蹴り、そしてそれを共にしっかりと左手のみでガードする京山。


「ごちゃごちゃうるせえんだよ。てめえはよお。馬鹿によお。『おめえ、馬鹿だろ』つってんだよ。よええならすっこんでろ。道の端っこ、下向いてよお。そういうことだよ。京山ぁ」


 『キチガイ』と『クールにキチガイ』をやれる二人がぶつかる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る