第113話今日はなんかぐっすり眠れそうです
ピンポーン。ある高級マンションを訪れる半グレ集団『模索模索』のメンバー。
「はい?」
「あ。いつも『先生』にお話を聞いていただいております〇〇と申します」
「あ、○○さん?今開けますね」
「いつもすいません。それで『先生』はいらっしゃいますか?アポのお電話は差し上げてますが…」
「ええ。奥の書斎の方でお待ちです。どうぞ」
「失礼しまーす」
そして奥の書斎へ案内される半グレ集団『模索模索』のメンバー。もちろん一人である。
「あ、どうも。『先生』。お忙しい中すいません」
「あ…、いや。君にはいつも世話になっておるし。全然迷惑じゃないよ。あ、お前は他の部屋に行ってなさい」
「じゃあ、『娘』が焼いたクッキーがありますので。お紅茶と一緒にお持ちしますね」
そして『先生』と呼ばれる男の夫人らしき女性が部屋を出ていく。
「またかね…。もう勘弁してくれんか…」
「え?『勘弁』ってなんですか?僕はただ『独り言』を言いに来ただけですよ」
「いや…、まあ…」
「奥さんの前で『独り言』言ってもいいですかねえ?」
「それはやめてくれ!」
「まさか。冗談ですよ。僕もプライベートは大事にしたいですから。あくまでも『先生』にだけ『独り言』を、ね。なんか『独り言』を『先生』の前で言うと心が楽になるんです。少し病んでた時期が長かったものでして」
そして夫人が『娘が焼いた』というクッキーとお紅茶を部屋へ運んでくる。
「あとはごゆっくり」
そして部屋を後にする夫人。
「もう大丈夫ですね。『独り言』を言っても」
「ああ…」
「その前に一つ聞いてもいいですか?」
「なんだね…」
「『先生』の『娘』さん?いらっしゃるんですね。おいくつですか?」
「『娘』は関係ないだろう!」
「『先生』ぇ…。僕、病んでた時期が長かったって言いましたよね。いきなり怒鳴られたら、ねえ。急に『鬱』が再発してしまうかもしれませんよ。それで?もう一回聞きましょうか」
「…、十二歳だ…」
「てことは…、小学六年生ですか?」
「ああ…」
「他にお子さんはいらっしゃるんですか?」
「…」
「『先生』ぇ…。『先生』が黙り込むとやっぱり僕の『鬱』がですね、ねえ」
「もう勘弁してくれないか…。頼むよ…」
「やだなあ。『勘弁』てなんですか?僕はただ『先生』に『独り言』、つまり『世間話』を聞いてもらうだけで心が穏やかになるからお時間を頂いているだけですよ。邪魔なようでしたら帰りますけど…。それで『いいんです』ね?」
「いや、待ってくれ」
「で。先生のお子さんの話でしたっけ。『家族』っていいですね」
「上に中三の長女と下に四年生の三女がおる…」
「へえ。いいですね。三姉妹ですか。まあ男の子が欲しかったかもですが。こればかりは『授かりもの』ですからね。『三姉妹』かあ…。いいなあ…。かわいいでしょうねえ。今度会わせてくださいよお。無理にとは言いませんが。僕って兄弟もいないし、親もいないから『家族』ってやつに憧れるんですね。で。『先生』の個人的な『ご趣味』をその『ご家族』は…」
「やめてくれ!」
「え?すいません。僕は病んでた時期が長かったんで。人のことを知らないうちに『傷つけて』しまうかもなんですね。言葉に気をつけます。いやあ、『言葉』って本当に難しいですね」
「いくらだ…」
「え?何言ってんですか?」
「だから『いくら』だと」
「『先生』ぇ。僕は病んでた時期が長かったですよ。それでも『なにもしてないのにお金を受け取る』ことはいくらなんでも無茶苦茶すぎることぐらい『理解』してますから。なんで『先生』が僕に『お金』を払おうとするんですか?」
「…」
「まあ、『先生』が『お小遣い』として無理やり僕に受け取らせるのなら『使わずに預かって』おきますけど」
この『先生』と呼ばれている男は半グレ集団『模索模索』が経営する高級デリヘルの会員だった。まあ、世に出されるとこの『素敵な家族』や『素敵な三姉妹』の未来は終わる動画を撮られている。抜けられない蟻地獄に嵌まった餌食の一人である。そして『集金係』であるこの『模索模索』のメンバーも『言葉遣い』がとてもうまい。『恫喝』、『恐喝』と取れる言葉はひとつも使っていない。
「ああ、今日も『先生』に『独り言』や『話』を聞いてもらってスッキリしました。今日はなんかぐっすり眠れそうです。ありがとうございました」
受け取った封筒には『二百万円』が入っている。別にその金額を指定したわけでもない。ただ、最初に『想像』はさせた。値段は間宮がそれぞれにつける。
「あのおっさんなら月に二百は楽勝だろうよ」
月にそういう蟻地獄へと嵌まった人間を一周回れば数千万の金が『模索模索』に入ってくる。それも半グレ集団『模索模索』の資金源の一部である。
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