第77話カリスマ
アイスまみれの小袋を丁寧にキッチンの水道水で洗い流す田所。そして水気もしっかり綺麗に拭きとり戻ってくる田所。鬼の形相の田所。
「お前ら…、『知ってました』じゃ済まんからなって言ったよな」
さすがに復唱出来ないで固まっている飯塚。必死で言い訳をする三人の男たち。
「いや!ホントに知りませんでした!」
「ホントです!電話番で簡単な仕事で日当二万貰えるって!それだけしか知らないんです!」
「ホントです!僕ら何も知らないです!ホントですから!」
そしてビニールの小袋の一つを破り、中身を確認する田所。白い粉末。
「これは何だ?」
怒りを必死で抑え込みながら田所の質問は続く。
「いえ!ホントに何も知らないんです!」
シチュエーションからいってどう考えても『覚せい剤』だよな…と思う飯塚。うどん粉とか小麦粉をわざわざああいう風に隠したりしないよね…と思う飯塚。と、同時にこの三人の男たちは本当に下っ端で何も知らないんだろう、演技には見えないし…と思う飯塚。その瞬間、背後から別の男の声が。怒りで気配に気付けなかった田所と動揺で気配に気付けなかった飯塚と愛子ちゃん。ビビっている三人の男たちも同様。一斉に声の主に視線を送るこの場にいた六人。
「あっれえええ?それってひょっとして『シャブ』ってやつじゃないの?僕がお巡りさんなら現行犯逮捕ですよ。『肉球会』の田所さん、いや、元『肉球会』でしたっけ」
「ま、間宮さん!」
正座したままこの場に現れた救世主にすがるような声を出す三人の男たち。え?こいつがあの『間宮』?と思う飯塚。健司の後輩で名門『藻府藻府』を割った男。あの現『藻府藻府』ナンバーツーでごつい新藤やナンバーワンの宮部に逆らって半グレ集団『模索模索』を作りそのトップに君臨する男。日本最大広域指定暴力団『血湯血湯会』をバックに持つ男。想像していたのと全然違う…、と思う飯塚。童顔でパッと見はその辺の大学生と変わらない。ねじり鉢巻きどころかサラサラのロン毛。ただ、この場には合わない妙な落ち着き。只者ではないことは分かる。
「え?誰?俺は君たちなんか知らないよ」
「え?間宮さん!吉田ですよ!デリヘルの店番を任されてる…」
「だから誰?知らねえって。田所さんは知ってるよ。そっちの飯塚さんもね。でも他の四人は知らないよ。初対面でしょ」
田所が間宮と対峙する。
「おいこら。てめえが『間宮』か。『知らねえ』が通用すると思ってんのか?トカゲの尻尾切りでは済まんぞわれえ」
「いえいえ。本当に知らないんですよ。おい、そこの三人。俺のこと本当に知ってるの?」
「あ、いや…」
「あのお…」
「え、いや…」
「ほら、他人の空似ってあるじゃん。それじゃね?」
間宮と呼ばれる男が言葉で三人の男たちの口封じに出ているのが分かる。
「おいおい。バレバレなその場しのぎの口裏合わせは通用しねえよ」
昔はヤンチャだった飯塚が間宮に噛みつく。
「やだなあ。勘弁してくださいよ。飯塚さん」
「だったらなんでてめえはここにいる」
田所も間宮に噛みつく。
「え?なんか知り合いに頼まれて。ここで『悪質なデリヘル』をやってるってね。聞いたらなんか女の子も無理やり働かされてるらしくてね。そんなの聞いたら許せないじゃん」
「言いてえことはそれだけかあああああああ!」
ふざけた間宮の口上にブチ切れた田所が間宮に襲い掛かろうとする。その瞬間、田所のスピードに負けない動きで間宮が一枚の写真を田所の眼前に掲げる。それを見て動きを止める田所。ん?どういうことだ?と思う飯塚。
「てめえ…」
写真にはパンチパーマを7・3に分けた田所と京山が一緒に飲んでいる姿が。
「田所さんは確か『肉球会』さんから『破門』されたんですよね。そんな人間と仲良く飲み会ですか。これってまずくないすか?」
すべての悪い状況をたった一枚の写真でひっくり返してしまった間宮。この男は危険だ…、危険すぎる…と飯塚は思った。
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