第78話「仙道」

 それにしても…、とある違和感も覚える飯塚。このタイミングでこの場に間宮が現れるのはどう考えても不自然過ぎると思う飯塚。さりげなく視線を部屋の隅へと動かす飯塚。それを見透かしたように言う間宮。


「あれえ。この部屋って天井の隅にカメラが取り付けられてる。なんか見張られてるっぽいね。ちょっとのんびりはしてられないんじゃないかなあ。すぐに『怖い人』たちが大勢やってきそうじゃない?」


 なるほど、すでにこの部屋は監視されていてこっちの動きは筒抜けだったわけかと思う飯塚。と、同時に随分と舐め腐ったことを言いやがる、こいつは本当に武闘派な上に頭もキレるし危険だ…と思う飯塚。田所も部屋に取り付けられた監視カメラに気付き、思わずカメラに向かって『ピース』をしてしまう。何やってるんですか!田所のあんさん!と思う飯塚。田所の行動を真似して同じように監視カメラに向かって『ピース』を両手で決める間宮。


「て、てっめえ…。『あれ』もてめえが日頃の監視用に取り付けたもんだろうが!この手の店は『監視』が必要だからな」


「へ?そうなの?さっすが元『肉球会』の田所さん。元本職は裏社会に詳しいですね」


 どこまでも二人を舐め腐る間宮。田所も飯塚も分かっている。この場にこれ以上間宮が言う『怖い人』など来ないことは。


「それよりてめえ。この『写真』はどこで。いつからハッてた」


 この写真は例の『一ノ蔵冷や』を頼んだ店で撮られたものである。この髪型にして京山と酒を飲んだのはあの時ぐらいである。


「さあ。僕も自分で撮ったものではありませんので。何も分かりませーん。ただある人から手渡されただけでーす。ちなみに何枚でも複製してあるそうでーす」


 おそらく自分たち二人が活動を始めた時にはすでに『模索模索』やそのバックの『血湯血湯会』にすべての動きが筒抜けだったのであろうと思う飯塚。と、同時にいちいち言葉のイントネーションにまで人をイラつかせる間宮にムカつきが止まらない飯塚。と、同時に「この写真が世に出るとまずい!」と思う飯塚。そこで百戦錬磨の田所が間宮を揺さぶる。


「ほー。そうか。だよなあ。僕ちんは何も知りませーんってか?そりゃ当然だよなあ。てめえは『模索模索』のトップと言われてるようだが所詮『お飾り』だろ?本当のトップは別にいる。てめえもこいつらと同じで何かあればすぐに切られる『トカゲの尻尾』なんだよ!」


 いいぞ!と思う飯塚。そして飯塚の言葉を復唱する飯塚。しかし間宮は全く動じない。


「え?『模索模索』?『トップ』?なにそれ?僕はただ人に頼まれて『無理やり働かされている女の子たちを救う』ためにここへ来ただけなんだけどなあ…。それよりこの写真はどうするの?合成ですよね?今の技術だとこういうのは簡単に作れるって聞いたことありますからねえー。多分顔の部分だけアプリで切り抜いてそれっぽく加工してるんですよねえー」


 どこまでもネチネチとこっちの弱点を責めてくる間宮。ここで「はい。それは合成です」とは絶対に言えない。どんな相手に対しても『嘘』を言うことは田所の生き方、神内さんの教えに背くことになると思う飯塚。そこで独り言のように田所が呟く。


「仙道」


「あ?」


「おやじの教えだよ。てめえにも教えといてやる。ありがたーく聞いとけ。『仙道』なんだよ。俺は『呼吸法』を長い時間をかけて体得した。特殊な『呼吸法』により、体を流れる血液の流れをコントロールして血液に『波紋』を起こし、太陽光の波と同じ波長の生命エネルギーを生み出すチベット発祥と伝えられる秘術の一つ」


 田所の説明を聞きながら少し呆れたような表情を見せる間宮。真逆に「いいぞ!その手があった!」と思う飯塚。田所の説明は続く。


「この『波紋』を流すことを『波紋疾走』と言い、治癒に使うこともあれば、普通の攻撃が効かない相手を浄化させることも出来る。素質のあるやつは修行しなくても使えるらしいが俺の場合、まず五分間息を吸い続け、その後五分間息を吐き続ける修行から始めた。『肉球会』を破門?その前に俺は永遠の『波紋使い』だぜ」


 さすがだ!神内さんの教えはすごい!どんだけ幅広いんだ!と思う飯塚。

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