第76話業務用アイス

「し、知らねえよ…。そんな名前…」


「あ?じゃあいい。携帯出せや」


「お、おい、ちょっと…、ま、待ってくれ!」


「あ?『ちょっと待ったコール』か?スタジオが『大どんでん返し』で盛り上がるとでも思ってんのかあ?彼女いない歴二十年でも『ごめんなさい』かあ!?それとも『ちょっと待ったおじさん』か?このロリコン野郎が!」


 いちいちスマホで田所の言葉を調べ「なるほど」と思う飯塚。そして強引にスマホを全員から没収する田所。


「さっさと出せこの野郎。没収だ、『ぼっしゅーと』だ、この野郎」


 「ボッシュート」の言葉の意味を調べ「なるほど」と思う飯塚。と、同時に神内さんの教えは幅広いなあと思う飯塚。


「えーと、『まみや』、『まみや』と」


 取り上げたスマホから『間宮』の番号を探す田所。撮影はすでに始まっている。


「お、これか。『間宮さん』ってやつか。お前ら携帯の登録まで『さん付け』か。よし、お前。今からお前がかけろ」


「え?俺がですか…」


「あ?」


 『鞭打ち』よろしく、手を液体のようにぶらんぶらんさせる田所。


「あ、分かりました。でも…、何て言えば…」


「ああ?事務所が襲われましたとでも言えばええやろが。その前にいくつか『うたって』もらおうか」


 お!きたきた!『うたわせてみた』のコーナーだ!と思う飯塚。


「そうだ。お前らにはいろいろと『うたって』もらうぞ」


 昔はヤンチャだった飯塚もガンガン強気でいく。なにせこの動画は編集を入れるとしても自分がメインで演じないとと思う飯塚。


「お前らは半グレ集団『模索模索』だろ?」


「お前らは半グレ集団『模索模索』だろ?」


 田所の言葉をそのまま復唱する飯塚。


「は、はい…」


 田所のぶらんぶらんと揺れている『手』を見ながら正座で素直に答える男たち。


「この店は『誰』の許可を取ってやってんだ?」


「この店は『誰』の許可を取ってやってんだ?」


「あ、いや、俺は下っ端だから知りません…」


「そっちの奴は?」


「そっちの奴は?」


「俺も知りません…」


「じゃあお前」


「じゃあお前」


「俺も知りません…」


「お前ら後で『答え合わせ』するからの。『知ってました』じゃ済まんからな」


「お前ら後で『答え合わせ』するからの。『知ってました』じゃ済まんからな」


 田所の言葉をそのまま復唱する飯塚を見ながら「こいつ…、何故復唱する?」と思う三人。と、同時に「本当に知らないんです!」と思う三人。


「いや!本当に俺らはただの店番でして!」


「そうなんです!『金』と『女』の管理を任されてるだけでして!」


「だからそれ以外のことは何も聞かされてないんです!」


 必死で答える三人。


「じゃあ次の質問。女の子は他にもいるだろ?全部で何人いる?」


「じゃあ次の質問。女の子は他にもいるだろ?全部で何人いる?」


「えー、十四、五人ぐらいです…」


「『ぐらい』?お前ら、一人消えるか?」


「『ぐらい』?お前ら、一人消えるか?」


「すいません!今、名簿で確認します!」


「誰が正座やめていいつった」


「誰が正座やめていいつっつ」


 しびれを我慢しながら立ち上がろうとする男どもに田所が言い、それを飯塚が復唱する。


「名簿はどこにある?」


「名簿はどこにある?」


「あ、その机の上から二番目の引き出しの中です」


「お前ら分かってるな。ふかしこきやがったら『ぼっしゅーと』では済まさんぞ」


「お前ら分かってるな。ふかしこきやがったら『ぼっしゅーと』では済まさんぞ」


 そして田所が事務所の中の机の引き出しを物色する。


「あ、自分がいろいろと調べますから。兄弟はそいつら見張っててください」


 一緒に調べようと思っていた飯塚が三人の正座した男たちの前で仁王立ちする。こいつらを見張るのが俺の『役』!と自分に言い聞かせる飯塚。


 そして女性名簿や売上台帳らしきものを持ちだしてくる田所。持ち運び用の金庫まで。この中には売り上げがたんまり入ってるんだろうなあと思う飯塚。そして何故か『業務用2リットルバニラアイス』まで持ってくる田所。あれ?アイスを見つけて食べたくなったのかなあと思う飯塚。


「ただの事務所の冷蔵庫にビールや酒なら『自然』に見落とすだろうな。何故『冷凍庫』にあれだけの『業務用アイス』が大量に入れられてあるんだ?」


 え?いや、何故でしょう?と思う飯塚。と、同時に復唱したいけどセリフが長かったのでもう一回お願いしますと思う飯塚。


「『不自然』なんだよ」


「『不自然』なんだよ」


 え?復唱しながら「そうなの?」と思う飯塚。そして業務用アイスの蓋を取り、そこに開けたばかりの缶ビールを上からかける。


「もう一度だけ言っておく。『知ってました』じゃ済まんからな」


「もう一度だけ言っておく。『知ってました』じゃ済まんからな」


 復唱しながら「え?どういう意味なんだろう?」と思う飯塚。そしてビールがかけられ暫く放置され溶け始めるアイス。『ソーダフロート』ならぬ『ビールフロート』が好きなのか?田所のあんさんは、と思いながらそれを見守る飯塚。そして頃合いを見て、溶けたアイスの中に手を突っ込む田所。そして中からビニール袋が。一つ。また一つ。どんどんと溶けた業務用アイスの中から出てくるビニールの小袋。飯塚も三人の男たちもそれを見て固まる。

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