第75話『怖くなったらすぐ帰れ』が合言葉だろおがあああああああ!!

 そして意外と駅から近い場所、タクシーでワンメーターのところのマンション近くで降りる三人。


「山本さん。このマンションですか」


「はい」


「へえ。デリヘルなのにドライバーとかいないんですか?」


「はい。他のお店は知りませんがここは女の子が自分一人で移動します。お客様から受け取ったお金を最後に渡す時と交通費替わりの微々たる給料を受け取るためだけにここへ来るんです」


「部屋番号は分かりますか」


「はい。〇〇号室です。あ、でも…。私はオールナイトで帰ってこないことになってます。私がドアを開けるわけには…」


「あ、大丈夫です。飯塚ちゃん。『道具』の準備は大丈夫ですか」


「はいな。あんさん。あんさんの方こそ撮影の仕方は大丈夫ですか?」


「ええ。この小型カメラのリモコンボタンがこれですよね。ここを押すと撮影が始まるんすよね」


「そうです。で、どうやって部屋に入ります?」


「任せてください。おやじの教えです」


 そうか!神内さんもこういう場面のこともしっかり想定し、『肉球会』の方々にしっかりと教育されてるんだ!さすがだ!と思う飯塚。


「じゃあ、山本さん。今夜で終わらせますんで。本当ならここに来るのも嫌だったと思います。最後にします。終わらせますので。ここだけは一緒についてきてもらえますか。大丈夫です。信じてもらえますか」


「…はい!」


 そして三人で部屋の前まで移動する。そして田所が部屋のインターホンを鳴らす。え?これが神内さんの教えですか?と思う飯塚。そしてインターホンから男の声が。


「誰や」


「俺じゃ。はよお開けろ」


 ドスの利いた声でインターホンに向かって答える田所。なるほど!と思う飯塚。『銀さん』が帝銀の頭取と会うために海道の囲っている女の部屋を開けさせたのと同じ技だ!と感心する飯塚。そして思わず「誰だろう?」とうっかり部屋の鍵を開ける悪徳デリヘル『グッドフェラーズ』の従業員。ドアが開いた瞬間、田所がドアを開けた男の顔面にものすごいパンチを打ち込む。


 どごーん!


 『鞭打ち』が『柔』なら、これは『剛』だ!と思う飯塚。漫画のように壁までぶっ飛び頭の周りにヒヨコをピヨピヨ飛ばし気を失う従業員。


「さあ、自分の後についてきてください。飯塚ちゃん、いくぞ」


「はいな。田所のあんさん」


 そのまま土足で部屋の中へ乗り込む三人。部屋の中には電話番らしき男が二人。


「誰だ!てめえら!」


「おい!後ろにいるのはえりなじゃねえか!なんでお前がここにいんだよ!」


 カメラはすでに回っている。


「うるさい!俺たちは『正義の味方』だ!お前ら悪徳デリヘル『グッドフェラーズ』を退治しにきた!」


 昔は少しヤンチャだったけれどちょっと前までは随分丸くなり、社会人として一般人として働いていた飯塚。いろんな覚悟を背負った飯塚が吠える。


「ああ?退治だと?何言ってんだお前?うちがどういう店か知ってんのか?」


「あ?おこちゃま軍団『模索模索』直営店だろ?」


 飯塚の言葉に、『模索模索』の名前を馬鹿にされた男が怒りを見せる。


「お、おどれええええ!!」


 そしていきなりツイストで踊り出す田所。え?と思う飯塚。その「おどれ」じゃないですよと思う飯塚。いや、これは余裕だ、相手をおちょくってるんだ、さすが田所のあんさん、こんな場面でもこいつらをおちょくりますかー、と思う飯塚。


「て、てめえ…、ざけやがって…」


 そう言って部屋の中に置かれていたゴルフのアイアンを掴む男たち。


「あ?『踊れ』って言ったのはてめえらだろうが。じゃあこっちか」


 そう言ってモンキーダンスを踊り始める田所。それを見た二人の男がアイアンを振りかざし田所を襲う。


 どごーん!


 どごーん!


 例えアイアンを持とうが田所に瞬殺される二人の男たち。お約束通り、頭の周りをヒヨコがピヨピヨ飛んでいる。そして田所がふと机の上に置かれた明細書に気付く。


『えりな オールナイトコース 十二時間 五百円(指名料込み)』


 これを見て田所の怒りが頂点に達する。ぐったり倒れ込み、頭の周りにヒヨコをピヨピヨ飛ばしている男の一人を無理やり引きずり起こし『ビンタ(鞭打ち風味)』をかます。


「いてえ!いてえ!」


 田所の『ビンタ鞭打ち』で意識を取り戻した男に田所が吠える。


「ごるああああああああああああ!なんじゃこの『給与明細』はああああああああ!てめえら『テリー伊藤さん』舐めてんじゃねえええええええええええ!『怖くなったらすぐ帰れ』が合言葉だろおがあああああああ!!十二時間働かせて指名料込みで『五百円』だとおおおおおおおおおお!『労基』が黙っちゃいねえぞおおおおおおおおおお!」


 そしてもう一人の方もぼっこぼこにする田所。


「あ…、田所さん。やりすぎでは…、死んでしまいますよ」


「愛子さん。ダメです。止めては。『田所を止めるな!』です」


 どや顔で言う飯塚。今のはですね、ほら、すごい流行った映画で似たようなタイトルあったじゃないですかあー、仕込みじゃないですよ、ホントに今思いついたんですよと思う飯塚。田所がぐったりした二人とようやく気を取り戻し、部屋に戻ってきたところを『ビンタ鞭打ち』で再度ダウンさせた玄関で部屋のドアを開けた男を正座させて言う。


「間宮ってガキを今ここに呼びだせ」

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