第37話僕、おかしなこと言ってます?

「確かにお客様がおっしゃる通りですよ。お客様のドリンクはおひとり様一時間三千円で飲み放題です。それに延長も同じ条件です」


 きたーーーーーーーー!と思う飯塚。


「それじゃあこの百五十八万二千円ですか?えーと、最初に聞いてた一万二千円を引くと残りが百五十七万円ですよね?一体それは何の料金ですか?」


 どうせぼったくりでしょ?氷が十万とか水がとか、女の子のドリンクがとか言うんでしょ?と思う飯塚。それにしても相場は高くても三十万ぐらいでしょ?それが百五十八万二千円て。と思う飯塚。とりあえずいい動画が撮れるぞ!百万越えきたーーーーーーー!と思う飯塚。


「ただし、女性スタッフが飲んだドリンクは別料金になりますので。それにお客様はおつまみや『フルール』や『ボトル』まで頼まれてますので。やはりそれは別料金になります。僕、おかしなこと言ってます?」


 いちろーか!!と思う飯塚。はいはい、『まで』と来ましたね。と思う飯塚。おかしなことを言ってますかだって。言ってるんだよ馬鹿かこいつ、逆の立場だったら絶対抵抗するでしょ?と思う飯塚。以前問題なしと思う飯塚。


「いえいえ。お金は払いますよ。ただし、納得がいけばですよ。乞食じゃありませんし。ただ、銀座の高級クラブじゃあるまいし。その『フルーツ』もあれ缶詰ですよね?『ボトル』もあれは『じんろ』ですよね?ひとつひとつ検証していきましょう。納得がいけば払いますから。ねえ、田所さん」


「あ、名前はまずいんじゃないですか?」


 思わずそれを言ってしまう田所。いえいえ、後で編集しますから大丈夫ですよ。と思う飯塚。


「え?名前がまずい?お客様は田所さんですか。別にこういうところは偽名でなくてもいいですよ。風俗とかじゃないですから。変な個人情報漏洩とかありませんから」


 いや…、そういう意味じゃないんですが。と思う飯塚。とりあえず明細を聞いてみる二人。


「まずですね、このチャージ料金が二十万円ですね。場所代です。場所代。それに女の子の飲み物が一杯三十万円ですね。これが三杯で九十万円です。それに『フルーツ』が五十万円です。あと、おつまみに乾きものが三十万円です。あと『ボトル』が百万円です」


 あ、氷代とかお水代とかではないのか。と思う飯塚。ちぇ、氷はヒマラヤ山脈だとか、お水はサハラ砂漠のオアシスの貴重なお水なの?って聞いて『どうだ!俺ってトンチが利いてるだろ!』と自慢もしたかったのに。と思う飯塚。それにしてもこの兄さんの計算では百五十八万二千円を余裕で超えてるじゃないかとも思う飯塚と田所。


「あのお、さきほどもいいましたがじぶんはちゅうがくもろくにでてませんが、おにいさんのごせつめいだとにひゃくきゅうじゅうまんえんといちまんにせんえんになるんじゃないでしょうか?」


 棒読みで田所が同じことに気付き指摘する。


「ああ、それは出血大サービスです。皆さんに気持ちよく次回もご来店いただけるようにほぼ半値でやらせていただきました。『ボトル』も入れていただきましたので」


 ほお…。と思う飯塚。


「ちなみにお水や氷代もサービスしておきました。当店では南アルプスの天然水を現地で汲んできておりますので。毎日。氷も南極の氷をヘリコプターで運んできてますものを使っておりますので。毎日」


 お、おう…。こいつ、やりおるわ…。と思う飯塚。しかしこれならどうだ!と飯塚も言い返す。


「なるほどですね。うーん。それをサービスしてもらってるなら納得かもですねえ」


「そうなんですか?自分はよく分かりませんが。まあ半額に勉強してくれているようでしたら良心的なんでしょう」


 いいぞ!動画はバッチリ撮れてる!視聴者のみなさーん!約三百万円の大台ですよー!それが半額ですよー!いいお店ですねー!これは払わないとダメですよねー。とウキウキな気分になる飯塚。明日もまた見てくれるかなのオープニングのような歌が心の中で流れる飯塚。そして第二弾発動。


「まあ、説明を聞けば納得ですし、むしろ安いですね。ここは僕が払いますね。あ、お兄さん。じゃあカードで。一括でお願いします」


「すいません。当店はカードを取り扱っておりません」


「じゃあPayPayで」


「すいません。当店はPayPayも取り扱っておりません。現金オンリーです」


「ええええ。今どきカードも使えねえのかよおおー。お兄さん。今はキャッシュレスっすよ?PayPayも使えねえっておかしくねえ?百万二百万の現金持ち歩くやついんの?」


 飯塚が煽るように口調を変える。そして店員もそれに反応する。


「お客さん。さっきから聞いてましたらPayPay?クレジットカード?そんなしゃれたもんが通用すると思ってんの?ああ?こら?」


「まあまあ、お二方とも落ち着いて。冷静に話しましょう」


「あ?何言ってんだお前?確か田所っつったなあ?ギャグみたいな髪型しやがって。おー、お前が払えよ。何なら貸してくれるところ紹介したるぞ。ええ、ごるあああああ!!」


「え?貸してくれるところをご紹介いただけるのですか?」


 いいぞ!と思う飯塚。昔気質で屈強な組員であった田所(髪型7:3)がこのお店を成敗するまであと少し。

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