第36話『ぼったくりバーで延長してみた!』

「でも『ボトル』まで入れてくれてありがとー!」


 いやいや、その『ボトル』キープする気ないでしょ?と思う飯塚。


「いえいえ。うちのお父さんや兄弟にも言っておきますので。是非その時は自分の『ボトル』をお願いします。まあ、うちの『レコ』には文句は言わせませんので」


「え?『レコ』って何ぃ?」


 おねえさんもそう聞こえますよね?。と思う飯塚。田所さんは活舌が悪いのかなあ?と思う飯塚。そしておねえさん、『ねこ』ですよ。『ねこ』と思う飯塚。


「あ、いえ。お恥ずかしいですが。これですよ。自分のこれです」


 そう言いながら小指を立てる飯塚。とりあえず、本当にとりあえず、小指の存在を確認しホッとする飯塚。そして、そうだぞー!ねこさんは綺麗で優しい人なんだぞー。と思う飯塚。


「あのお、そろそろ一時間になりますので。お会計をお願いしましょう」


 少しドキドキしながら言う飯塚。


「あ、もうそんな時間ですか。延長しませんか?」


 いやだめですよ。と思う飯塚。ここはぼったくりバーですよ。と思う飯塚。ここからが僕らの仕事ですよ。と思う飯塚。でも延長もいいかもなあ、どうせこのお店を成敗するんだからなあー。もっとお金を請求されるのもいいなあ、『ぼったくりバーで延長してみた!』なんて動画ないもんなあー。と思う飯塚。


「そうよそうよー。延長しようよー」


「ちょっと確認してもらえませんか?明朗会計でないと。自分も今日は手持ちがあれなので。お恥ずかしいですが。それに仕事中でもありますし」


「そうですね。最初に『一時間ひとり三千円で飲み放題。しかも消費税やその他も込み込み』とのことでしたので。それと同じ料金ならもう一時間ぐらい飲みたいと思います」


 ぼったくりバーで『ユーチューバー』初の延長だぞ!と思う飯塚。


「いえーい!ちょっと確認してきますねー」


 そう言いながらテーブルを離れるおねえさん。


「(今のところいい感じですよ!)」


「(そうなんですか?大丈夫でしょうか?)」


「(ぼったくりバーで延長するなんて絶対受けますよ!)」


「(そうなんですか?)」


「(はい!『フルバ』最高です!『KPB』最高です!これは最初からすごいのが撮れてますよ!)」


「(そうなんですか?)」


「お待たあー!」


 おねえさんがテーブルに帰ってくる。


「あのねえー、本当なら一時間飲み放題おひとり様三千円は最初の一時間だけなんですけど、今回だけは特別におんなじ条件で延長大丈夫だって!れいこもうれしー!」


 このおねえさんはれいこさんなんだ、れこさんに似てる。と思う飯塚。そして『ぼったくりバーで延長してみた!』だ!と思う飯塚。おんなじ条件?どうせものすごい請求するんでしょ?と思う飯塚。そしてもう一時間があっという間に過ぎる。そしてお会計。


「こちらがお会計になります」


 あ、動画でいつもよく見るやり取りだなあ。と思う飯塚。請求書の金額を見る田所と飯塚。


『百五十八万二千円』


 そしてこっそり消えるれいこさん。そしてこれから昔気質で屈強な組員であった田所と昔はやんちゃで他の兄ちゃんよりは根性が座っている飯塚とぼったくりバーの店員との戦いが始まる。これは成敗である。


「いちじかんおひとりさま、さんぜんえんぽっきり。しょうひぜいもすべてこみこみ。それでおんなじじょうけんでもういちじかんえんちょう。すいませんねえ。何しろ中学もろくに出てないものでして。自分の計算だとさんぜんえんがふたりでろくせんえん。それがもういちじかんでいちまんにせんえんだと思うのですが。ひゃくごじゅうはちまんにせんえんですか?ちょっとおかしくありませんか?」


 田所さんが…、あきらかに棒読みだ…。と思う飯塚。カメラは回っている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る