第25話独り言
「それでは飯塚さん。田所をよろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
深々と頭を下げる神内と昔気質で屈強な組員たち。田所も立ち上がり飯塚へ深々と頭を下げる。飯塚も膝に頭がぶつかるまで頭を下げる。
「こちらこそよろしくお願いします!」
「敦よ」
「はい!」
頭をあげた神内が田所に言う。
「今日をもってお前を破門とする。わしの名前で全国の組織に破門状を送っとく。ええな」
「はい!自分のシマをよろしくお願いします!大事に守ってあげてください!」
「分かった。敦のシマは、住友。学に任せてええか」
「はい。おやじのお考え通りでよろしいと思います。おい、学。敦のシマはお前がしっかり守るんやで。ご挨拶もちゃんとしとけよ」
「はい!ありがとうございます!」
「学。頼んだぞ」
「兄貴、分かりました。兄貴も飯塚さんと一緒に頑張ってください!」
そして神内が口を開く。
「ちょっと独り言や。敦は今日でうちの組を破門や。それで敦にチャチャ入れてくるもんがおったらどうしょうかなあ。うちのシマで敦が飯塚さんと『ユーチューバー』として活動するのに邪魔するやつがおったらどうしょうかなあ。わしは飯塚さんのチャンネルのファンやからなあ。飯塚さんと一緒に頑張ってる人がチャチャを入れられたら潰してまうかもしれんなあ。あくまでも独り言やけどなあ」
「おやじ…」
神内の心遣いに田所は込み上げる思いを持つ。
「住友よ」
「はい」
「『ユーチューブ』はカメラとかお金がかかるんか?」
「そうですね。いろいろと初期費用もかかると思います」
「流石に飯塚さんに組の金を渡すのはバレたらご迷惑おかけするよなあ」
「そうですね」
「敦に金を持たすんは大丈夫やな」
「破門する前なら大丈夫かと」
「組の金庫から『一本』用意したってくれるか?」
「はい」
住友が『肉球会』の事務所にある金庫から百万円の束を十。一千万円を取り出す。
「敦。困ったらいつでも連絡してこい」
そう言って一千万円の現金を田所に持たせる。
「誰ぞ、紙袋用意したって」
「はい!」
井上の声に昔気質で屈強な組員たちが返事し、紙袋を用意し、現金を詰める。
「おやじ…。おじき…。ありがとうございます!」
「あほかあ。たかが『一本』で何言うとる。敦。すまんな。飯塚さん。田所をよろしくお願いします」
「はい!」
もう目の前のやり取りに生で見た一千万円でいろいろ興奮している飯塚は返事で精一杯である。
「『仁義』チャンネルです。くれぐれもよろしくお願いします」
「飯塚さん。私の『ラルク』もいつかお願いしますよ」
「おじき。それは後々ということで」
「そうやったな。はっはっは」
「おい、達志。餞別代りや。『仁義』切ってくれるか」
「はい!」
部屋住みの末森が腰をかがめ、左手を後ろに回し、右手を足先まで下げ、『仁義』を切る。
「お控えください!お控えください!早速のお控え、ありがとうございます」
(ああ、いいなあ…。久しぶりにあれはわしがやりたかったなあ…。今日家に帰ってやろうかなあ…。それはそれで…。うーん)
末森の『仁義』の口上を聞きながら住友は思った。
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