第26話え?『薬』?『オレオレ』?
「飯塚さん」
『肉球会』の事務所を出て二人歩く飯塚と田所。普通に一千万円を入れた小さな紙袋を片手にした田所が言った。一千万円って意外とトランクとかじゃなく小さな紙袋に入るんだ、でもそれを普通に持ち歩くのってすごいなあと思う飯塚。
「はい。なんでしょうか?」
「これからいろいろとお世話になりますがよろしくお願いしますね」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします。それに先ほども言いましたが敬語はやめてください。僕の方が年下だと思いますし」
ツレの京山の兄貴分である田所が自分なんかに敬語を使っていることにめちゃくちゃ恐縮している飯塚。
「飯塚さん。年は関係ありませんよ。それに自分は教わる立場です。おやじに怒られますよ。ああ、あくまでも自分は破門の身ですが。心の中ではおやじはおやじです。それは変わりませんので」
「はい」
「それで実際、『ユーチューブ』とはどうやって撮影をしているんでしょうか?」
「それは簡単です。スマホでも動画は取れますので。でも画質に拘るなら今は小型で高性能のビデオカメラもたくさんありますので。僕もそういうのを使っています」
それにしても。街の人たちが田所に気軽に声を掛けてくる。
「あ、田所さん。こんにちは」
「こんにちは。どうですか?ご商売の方は?」
「おかげさんで。こないだいただいた『薬』。あれよかったです」
「それはよかったですね。またいつでも言ってください」
え?『薬』!?と思う飯塚。
「あの方はお肉屋さんを営んでらっしゃるんですよ」
「そうなんですか。で…あのお…、『薬』ってなんでしょうか?」
「ああ、『ばいあぐら』です。なんか夜の元気がないと前にご相談を受けまして」
「ああ、そういうことですか」
ホッとする飯塚。いや、昔気質で屈強な組員たちの一員の田所さんが『薬』に手を出すわけがないじゃないか!ちょっとでも疑った自分が恥ずかしい!と思う飯塚。
「あ!田所の兄ちゃん!こんにちは!」
「お、坊主。こんにちは!ちゃんと勉強してるか?」
「してるよー。それより今日も『オレオレ』やってー」
え?と思う飯塚。どう見ても小学生低学年の子供が田所さんに『オレオレ』やって?いや!昔気質で屈強な組員の一員である田所さんが、いや破門されたから組員ではないか。いやいやそんなことより田所さんが『オレオレ』なんてするわけがない!何を疑っているんだ!しかもこんな小さな子供にまで慕われている田所さんはすごく立派な人じゃないか!と自分に言い聞かせる飯塚。
「しょうがないなあー。『オレオレ』やってやるからその代わり帰ったら宿題するんやで」
「うん!」
「じゃあいくぞー。『おーれーーおれおれおれえーーー♪それはおーーーーれのー♪おれのおーーーれお♪』」
「うははははは!おもしろーーい!」
あ、そっちですか。と思う飯塚。田所の意外な一面も見れて嬉しい反面自分の心を責める気持ちになる飯塚。信じるんだ!信じないと!田所さんは素晴らしい人なんだ!あんな子供にも慕われてるじゃないか!
「そうなんですか。スマホでも撮影できちゃうんですね。早速動画を撮ってみませんか?」
え?何を撮るんだろう?と思う飯塚。
「いや、スマホでも撮影できますが。先に企画といいますか。入念な準備をした方がいいと思います」
「そうなんですね。企画ですか。準備は大事ですからね」
「そうですね。やはり行き当たりばったりでは退屈なものになってしまいますので。先ほど皆さんに出していただいたアイデアを入念に検討してみましょう」
「その前にどうしてもやっておきたいことがあるんですが。飯塚さん。あ、こら、お前ら、歩きタバコはあかんぞ。それに未成年やろが。お前ら」
田所がどう見ても中学生ぐらいの歩きタバコをしている集団を注意する。
「ああ!?なんだ?おっさん!」
「お前なんや?俺らがなんか迷惑かけたんか!?」
「やっちまうぞ!おっさんよお!」
昔気質で屈強な組員であった田所が中坊に絡まれている。こいつら命知らずかと思いつつ、どうなるのだろうと思う飯塚。中坊の一人が田所の顔に吸い殻を投げつける。どうなるんだ?恐ろしい。この中坊どもはどうなるんだ?そして自称底辺『ユーチューバー』の飯塚がこっそりとバレないようスマホで動画撮影を始める。さすがである。
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