第11話寒い

「よろしくおねがいします」


 例えツレだろうと組員たちの前では立場が変わる。飯塚もその辺は理解している。


「いろいろ考えてきました。まず『コールでいろいろ演奏してみた!』はどうでしょうか?」


「すでにやっている方もいますし、普通だと思います。まあ、『見せ方』次第なところもあると思います」


「『見せ方』でしょうか?」


「はい。コールなら『ちゅーりっぷ』や『みっきーまうす』など有名どころがベタですが、そこで『USA』とか国民的有名曲などをやれれば可能性はあると思います。極論、『コールで会話してみた!』なら面白いと思います」


「はい。じゃあ次なんですが、『煽り運転を族車で注意してみた!』はどうでしょうか?」


「それは…、なかなかタイミングの問題で難しいかもですね。アイデアは面白いと思いますが」


「面白いですか?それなら、後輩にモザイクかけまして、煽り運転役もやってもらいますんで。それならどうでしょうか?」


「それはもう『ユーチューブ』の世界では常識になっている『やらせ』ですね。『やらせ』はよくないと思います。視聴者はドキドキする人もいると思いますし、受けるものもあると思いますが…。長続きはしないと思います。『ドッキリ』に似てますね。素人の『どっきり』は寒いじゃないですか?」


 そこで相談役である井上が言う。


「おい、飯塚さんが『寒い』とおっしゃってるぞ。気を利かさんか」


「はい!」


「…いえ、僕が言った『寒い』は『ギャグが滑ってその場の空気が重くなること』を『寒い』と表現したのです。誤解を与えるような発言をして申し訳ありませんでした!」


「いえいえ、私の勉強不足が悪いので。飯塚さんは頭を下げないでください」


「は、はい!」


 屈強な組員たちが集まる『肉球会』の相談役の貫禄に飯塚も緊張する。


「あともう一つあります。「ガチでチキンレースをやってみた!」はどうでしょう?」


「…。あのお、本当に誰かが死んじゃいます。それはまずいのでは…」


「いえ、僕の後輩たちは運転テクニックもずば抜けています。やらせなしで壁に向かって時速百キロで突っ込みます!」


「…時速百キロは法定速度違反でまずいと思います」


「私道でやれば問題ないんじゃないでしょうか?」


「うーん。僕にもちょっと今は判断が付きませんのでお時間いただけますでしょうか?」


「分かりました。よろしくお願いします!」


(確か、『藻府藻府』のメンバークラスなら手放し運転とかずっとウイリーで走ったり、ドリフトのタイヤの跡で切れいな『字』を書いたり出来るんだよなあ…。それでもきついのか…。厳しい世界なんやなあ…)


 住友は『ユーチューブ』の世界の厳しさを痛感する。


「それでは次に自分が。よろしくお願いします!」


 山田学が自信満々の表情で立ち上がる。山田は『肉球会』組長である神内のガードとして行動を共にすることが多い。


「よろしくお願いします!まずは『お父さん(組長)の一日に密着してみた!』はどうでしょう?」


「…どうでしょう?」


 もはや飯塚にも何が面白くて、何が面白くないかの判断がつかなくなってきた。

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