第12話『値段が書かれていない高級寿司屋で高額請求されてみた!』
「あのお、『お父さん』とは…実際の山田さんのお父様のことでしょうか?」
「いえ、実際に血を引いているだけが『親』ではありませんじゃないですか」
「そうですね。結婚すれば『義理の父』とかありますね」
「いえ、そういうのでもなくてですね。なんて言ったらいいでしょうかねえ。あのお、Vシネマとかでもよく『おやじ』ってセリフあるじゃないですか?ああいう『おやじ』ですね。でも『おやじ』だとちょっとまずいかなと思いますので『お父さん』にしました」
飯塚には遠回しに説明する山田の言葉の意味はよおく理解できる。しかし、どおしても返事に困ってしまう。
「アイデアはいいと思います。先ほども言いましたようにそのアイデアも『見せ方』次第だと思います。テレビなどの『初めてのおつかい』などは共感の意味で視聴者に受けているのだと思います。普通の『お父さんの一日』はあんまり視聴者も興味はもたないと思いますので」
「そうですか?自分の『おやじ』はかなり普通の方にはなかなかお目にかかれない一日を過ごされてますが」
「そうなんですか?例えば具体的にお聞かせいただけますか?」
神内組長のガードを務めることが多い山田は少し熱くなっている。
「いきなり乱暴な人に狙われることもありますし。逆に人望もありますので街の皆さんにもよくご挨拶をされますし。世間で言われるところの大企業の社長さんでも街の皆さんにご挨拶をされることはないんじゃないでしょうか?」
「そうですね。それはそれで面白いかもしれません。ただ、『見せ方』もありますので。ストレート過ぎると逆に通報されるリスクもありますので」
精一杯言葉を選ぶ飯塚。
「そうですか…。じゃあ、次のアイデアいいですか?」
「どうぞ」
「『値段が書かれていない高級寿司屋で高額請求されてみた!』というのはどうでしょう?」
(なるほど。確かに『ぼったくりバー』はあこぎな商売やが、値段の書いてない高級な店もやってることは一緒やなあ。店の言い値やもんなあ)
住友は山田のアイデアを聞き、目から鱗が落ちる思いを感じる。それは飯塚も同じなようである。
「それは面白いと思います!確かに明朗会計ではないのに『ぼったくりバー』は初めから『悪』と認識されてますが、高級店で明朗会計でないところは逆に名店と思われてます。その常識を覆す発想はなかったですね。いや、そのアイデアは素晴らしいです!シリーズ展開も出来そうですし。高級クラブのフルーツなんかも考えたら『ぼったくり』と言われてもおかしくないですね」
「あ、飯塚さん。ちょっといいですか?」
住友が口を開く。
「高級クラブなどのフルーツは『フルーツ』自体に価値があるわけではありませんでして。そのお店自体の『格』といいますか。お勤めされておられるホステスさんに見栄を張る意味であの値段なのです。ホストさんに大金を使われる女性と同じような意味合いですかね。それ自体に価値がなくてもそれを十分に補う付加価値としての部分を意味しているんです。ああいうお店は『ぼったくり』ではありません。それを踏まえて、そういうのが受けるんでしょうか?」
「いえ…。そうなんですね…。ただ、接客を伴わない飲食店ならありかと思います」
「そうなんですか?」
「住友。質問は後でと飯塚さんもおっしゃってらしたやろ。仕切りを任されてるお前が話を中断させたらあかんやろ」
「すいませんでした!」
神内組長の言葉に即座に答える若頭住友。その後、山田は比較的斬新なアイデアを提供し、飯塚もかなりの手ごたえを感じた。
「それじゃあ次は自分のアイデアをお願いします」
昔気質で屈強な組員たちが揃った『肉球会』の一員である田所敦が立ち上がる。
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