第10話え、ペットボトルの水を一万円で売るのってそんなに難しいですかね?
「あのお、ちょっといいですか?飯塚さん」
相談役の井上敏夫が飯塚に質問する。
「はい、どうぞ」
「その『中卒』が一流企業の面接を受けるとして、普通は履歴書の時点で相手にされないのではないでしょうか?仮に面接を受けることが出来たとして。それのどこが面白いんでしょうか?」
「はい。普通に考えれば井上さんがおっしゃる通りだと思います。ただ、今はものすごい有名な企業の社長が敢えてだらしない『ダメ人間』を演じて面接を受け、前半で敢えて『これは絶対採用されないだろう』と演出し、後半でがらりと『キレキレの優秀な人間』に変身し、面接官がそのギャップに驚く動画が受けてます。先ほど言いましたように『見せ方』次第で受ける動画が撮れる可能性は大いにあると思います。今、具体的に『こうすればいい』とは思いつきませんが、じっくり考えれば前例がありませんので斬新なものが生まれる可能性は高いと思います」
「そうなんですか。自分にはよく分かりませんねえ」
熱心にメモを取る屈強な組員たち。
「では実際に面接動画を見てみましょう。こちらになります」
飯塚が持参したノートパソコンの画面に『面接』動画を表示させる。屈強な組員たちは画面が見えやすい位置にそれぞれ移動する。
「うーん。なるほどですねえ。よく分からない言葉ばかりですが、だらしない今でいう『ニート』みたいな人間がいきなり出来る人間に変身するのは分かりやすいですね。あれ?次の『普通の水を一万円で売ってみた』って何ですか?」
「あ、これは普通のペットボトルの水を一万円払ってでも買いたいと思わせることが出来るか、企業でいうところの『プレゼンテーション』といいまして。その企業の人間のセールス力やトーク力を試す企画動画です。これも人気がありますね」
「そうなんですか?え、ペットボトルの水を一万円で売るのってそんなに難しいですかね?」
「え、いや、あのお。普通はコンビニや自販機で百円もしないような水を一万円で売るのですからなかなか難しいと思いますが…」
「あれ?健司は昔、ステッカーとかパー券とか四、五万で普通に売ってなかったか?」
「はい。売ってました」
「ああ…。そうですよね。確かに皆さんには普通に見えてしまうんでしょうけれど。普通はやはり難しいと思われてますので。はい。自販機の値段が普通のコーヒーに一万円と表示されてましたら買いませんよね?」
「なるほどですね」
真剣にメモを取る屈強な組員たち。
「住友さんならお分かりかと思いますが、先日のぼったくりのお店は明らかに違法だと感じられませんでしたか?」
「はい。あのお店は明らかに違法ですね」
「それを『実は氷がエベレストやヒマラヤ山脈から苦労して運んできた貴重な氷』だったんです!だとか、『実は水がサハラ砂漠の貴重なオアシスから汲んできたとてもとても苦労して用意した水』なんです!と言われると『だったらそれだけの価値はあるのかもしれないなあ』と考えてしまいませんか?」
「あ、確かに。本当にそれだけのものを使っていたら一概に『ぼったくり』と決めつけることも出来ないですね」
「そうなんです。そのように視聴者が『なるほど!』と唸るような発想や新しさがあれば受けるんです。この『普通の水を一万円で売ってみた』もそういった視聴者が『なるほど、その発想は面白いし納得する』という要素が入っていれば受けるんです」
「なるほどですね」
屈強な組員たちは真剣にメモを取る。若い部屋住みの末森は他にも飯塚が認めるようなアイデアをいくつか披露した。次は京山がアイデアを発表する番である。いったん、自分の席に戻る屈強な組員たち。
(うーん。達志は大したもんやなあ)
住友は感心しながら健司のアイデアに期待する。
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