第9話『中卒で一流企業の面接を受けてみた!!』
「自分からよろしいですか?」
若頭補佐である裕木が言った。裕木の方に顔を向け軽く頷く住友。
「あ、裕木と申します。飯塚さん。よろしくお願い致します。その、『ユーチューバー』というものはどういう仕組みで収益をあげるんでしょうか?なんか『動画の再生回数』が多ければ多いほど儲かると聞いてますが、『ユーチューブ』を見るのは無料ですし。その『課金』ですか?そういうものも聞いたこともありませんので」
「はい。裕木さんのおっしゃった通り、『ユーチューブ』は無料動画です。そこで金銭が発生するのは『広告』からです。テレビをイメージしていただければ分かりやすいと思います。民放テレビは必ずCMが流れます。番組にスポンサー、いわゆるお金を出す大手企業が付いているわけです。『ユーチューブ』も仕組みは同じです。もっと詳しくお話しますと広告収入以外の収入もありますが、お話がややこしくなりますので今は『有名になれば広告以外の収入も発生する』とお考えください。魅力的な動画はどうしても途中でCMが入っても視聴者はCMを見ようと見まいとその時間を我慢して動画の続きを見ます。それぐらい『見たい』ものを作ることが『人気ユーチューバー』になる方法です。先ほど裕木さんがおっしゃった『課金』も『人気ユーチューバー』になればおひねり感覚で投げ銭のように発生することもあります。つまり、民放のように視聴率の取り合いに勝ち、人気番組を作ると考えていただければイメージしやすいと思います。民放テレビもジャンルは歌番組であったり、ドラマであったり、バラエティーであったりと様々ですが『数字』を取るという目的は共通しています。皆さんがどのようなジャンルの動画を撮られるかをまずは考えていただき、視聴者が見たいと思うものを作れば『チャンネル登録者』、民放でいうところの『視聴者』も増えます。そしてCMを視聴者が見ることで収入を得る仕組みになっています」
「なるほど。確かにCMのないテレビはNHKぐらいですね。あそこは集金に来ますのでCMは流さないってことですね」
「はい。その通りです」
熱心にメモをとる組員たち。順番に質問が続き、それらを分かりやすく答えていく飯塚。
「よろしいでしょうか?人気のある動画は一千万以上の再生回数を超えていますが、大体一回の再生で0・1円なんでしょうか?あと、毎月百万円入ってくるんでしょうか?」
「その辺は不透明な部分もありますが相場としては一回の再生で0・1円とのお考えでいいと思います。あと、一本の動画で毎月百万円入ってくることはありません。そもそも再生回数が百万回を超えるのも難しい世界です。一本の動画を撮り、その動画に対して再生回数がじわじわ増えればそれだけ収入もじわじわ増えると考えてください。そのため、『ユーチューバー』は動画を何本も短いサイクルで撮り続け、『ユーチューブ』に投稿し続けます。例えば十万回の再生回数で一万円として、皆さんが作られるチャンネルに再生回数十万の動画が百本あれば百万円の収入となります。それに新しい動画からの収入と過去に投稿した動画がじわじわと再生回数を伸ばして得られる収入とを合わせて『ユーチューバー』としての収入となります」
「つまり、人気のある動画を作れば過去の作品も見てもらえて、天井なしで再生され続ければそれだけ収入になるということですか?」
「はい。その通りです。加えて、面白い動画や視聴者に受ける動画を撮り続けて、それぞれの動画の再生回数が増えればチャンネル登録者数も比例して増えます。軌道に乗れば視聴者に飽きられない限りどんどん安定していくということです」
真剣にメモを撮り続ける昔気質で屈強な男たちが揃った『肉球会』組員たち。一通りの質問が終わる。住友が次の議題へと話し始める。
「飯塚さん。どうもありがとうございました。いったんここで区切るので、質問があるものは最後にもう一度時間を作るので。それでは次の議題にいきます。飯塚さん。今日は各々が『これを動画にすれば受けるのではないか?』というものをそれぞれ持ち寄りました。いかんせん、自分らではそれが受けるのかどうか分かりませんでして。現役ユーチューバーでご活躍されていらっしゃる飯塚さんにそれぞれのアイデアを聞いていただき、受けるかどうかのご判断をお願いしたいと思ってます」
「いえ…、僕は現役ユーチューバーですが、チャンネル登録者数も動画の再生回数も微々たるものですので。判断と言われましても…」
『肉球会』の面々が昔気質で堅気の衆を大事にする人たちであることは十分分かっている。それでも、そんな方々が真剣に考えてきたアイデアにダメ出しをと考えたら。話すことで慣れてきていたこの場の雰囲気に、再度変な汗を感じてしまう飯塚だが住友たちの真摯な言葉に「何とか力になりたい」との気持ちも大きくなっていることを自覚する。。
「飯塚さん。そこを何とかお願い致します。当然素人のアイデアですので、ダメなものはダメだとハッキリ言ってください。むしろ厳しく言っていただいた方が私どもも助かります。視聴者はもっともっと厳しいと思いますので」
「分かりました。それでは皆さんのアイデアをお聞かせください」
「ありがとうございます。それでは一番若い末森から」
「はい!」
部屋住みで修行中の末森達志が元気よく返事をする。以前まで京山と二人で部屋住みだったが京山は組にお金を入れる立場になり、現在の『肉球会』部屋住みは末森一人である。部屋住みをしながら兄貴分たちの手伝いもし、組から小遣いをもらっている。
「一生懸命考えてみました!よろしくお願いします!いくつか候補がありますので順番に発表したいと思います。まずは『中卒で一流企業の面接を受けてみた!』。これはどうでしょうか?」
「面白いと思います。見せ方次第だと思いますが」
末森のアイデアがピンとこない住友が確認の意味で言う。
「飯塚さん。お気遣いは本当に結構ですので。厳しい意見をお願いします」
「いえ、本当に末森さんのアイデアは面白いと思います。まず誰もやっていないと思いますので。その新しさに興味が沸きました。そして繰り返しになりますが見せ方次第で反響も大きく変わると思います。いい方に転ぶといきなり多くの視聴者を獲得する可能性も大いにあると思います」
古参の幹部たちがざわつく。
(やはり若い達志はセンスがあるんかいのう)
そう思いながら、自分が用意したアイデアが逆に心配になってくるのを住友は感じていた。
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