第6話『ぼったくりバーにお金はいりませんから帰ってくださいとお願いされた!』

「お客さん。どうされました?」


「お前が責任者か?」


「そうですが」


「この店のオーナーってことやな?」


「え、いや、責任者です」


「わしは『責任者』を呼んでくれ言うたんや。オーナー呼んできて」


「いやー、現場は私に任されてますんで」


「金は払うよ。乞食じゃねーんだから。ただ、『責任者』を呼んできてと言ってんだよ。なあ、兄ちゃんよ」


「オーナーを連れて来ればお金は払ってくれるんですね?」


「さっきからそう言ってんだろ」


 どうせオーナーなど出てこないだろう。自称オーナーなどいくらでも作れる。住友はスマホを取り出し電話をかける。


「おう、健司。わしや。なんかキャッチの兄さんに『一時間三千円で飲み放題』って言われて今、百万請求されとるわ。今、ちょっと持ち合わせがあれやから事務所行って百万持ってきてくれるか?場所?ちょい待って」


 住友の表情を変えない余裕さと携帯での会話内容に不気味さを覚える自称責任者。


「おい、兄ちゃん。この店の住所とビル名と店名教えてくれるか?」


「あ、あのお、今オーナーに確認しますから少々お待ちくださいませんか?」


「あ?払うっつってんだろ?若いのに金持ってこさせるから店の住所、ビル名、店名」


 スマホを耳にあてながら住友は穏やかな口調で言う。今のご時世、言葉ひとつ間違えれば即逮捕される。ただ、相手がまっとうな堅気ではないことぐらい分かる。


「あ、言わんでも分かる?そうなのか?どれぐらいで来れる?ああ、そう。じゃあ頼むわ」


 そう言ってスマホを切る住友。自称責任者は地雷を踏んだことに気付いている。


「あ、あのお。お代は結構ですから…」


「なんでや?わしもお姉ちゃんも飲んだで。金はちゃんと払わなあかんやろ?」


「いえ、『そういう方』だと知りませんでしたので…」


「『そういう方』って何?わしは普通のおっさんやで」


 タバコの煙を吐きながら住友は席を立たない。店に京山と飯塚まで一緒に入ってきた。前の店から直行なのだろう。


「お、早かったな。悪いなあ。なんか『一時間三千円で飲み放題』が百万払えって言われてなあ」


「あ?こいつが責任者ですか?」


「いや、雇われやろ?なあ?兄ちゃん」


「は…、はい」


「経営者呼んでくれる?今後のことも含めてよーく話せんとなあ」


「すいませんでしたあ!お代は結構ですので!お帰りいただけませんか?」


「でも『払うもん』はちゃんと払わななあ」


「もう勘弁してください!」



「住友さん。今のユーチューブで流せばすごいことになりますよ。『ぼったくりバーにお金はいりませんから帰ってくださいとお願いされた!』なんてめちゃくちゃ面白いです!」


「そうなんですか?(あ!おやじがわしらに見せてた『ユーチューブ』の動画とおんなじや!なるほどなあ。こーゆーのが受けるんや)」


 モヤモヤがスッキリした住友に飯塚が嬉しそうに言う。


「『反社』さえバレなけば絶対です!」


 バレなければ。これは絶対、組の名前は隠さんとなあ…。隠し事か…。


 『肉球会』のユーチューブが始まる。

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