第3話反社
~居酒屋~
「こいつがわしのツレで飯塚です」
「ああ、今日はわざわざすいません」
「こちらはわしの上司の住友さんや」
「初めまして。飯塚です。話は健司から聞いてます。お力になれるか分かりませんが」
「いえいえ。何飲まれますか?」
この飯塚と呼ばれる若者。見た目はその辺にいる若いサラリーマンと変わらない。スーツ姿。真面目そうな風貌。ただ、京山のツレである。昔は相当やんちゃだったのだろう。『上司』とは言っているが住友がどういう人間かも知っているのだろう。そのうえでやたら落ち着いている。テーブルに注文した酒やつまみが並び、酒が二杯目になる。
「で、どうでしょう?飯塚さんは実際に『ユーチューバー』としてご活躍されてるんですよね。そんな方から見てこのアイデアは」
「正直、ものすごく面白いと思います。僕は『ユーチューバー』と言っても再生回数も全くでして。ご活躍どころか底辺もいいとこです。ただ、面白い面白くない、受ける受けないは何となく分かります。そのアイデアは斬新で画期的です。問題は一つだけだと思います」
「その『問題』とは何でしょう?」
住友が飯塚に尋ねる。が、住友は何となく頭の中で飯塚の答えを予想していた。
「それは…、言いづらいことですが…」
「どうぞ、気にせず。おっしゃってください」
住友は確信を持つ。
「それは皆さんが『反社』だからです」
想像通りの答えだった。
「やはりですか…」
飯塚と住友のやり取りを聞いていた京山も「やはり」という表情をする。飯塚は続けた。
「ただ、その問題は比較的簡単にクリア出来ると思います」
「そうなんですか?」
「はい。『反社』ではない人間にやらせればいいんです。皆さんの世界でも今は普通の会社を営んでいることも多いですよね。それと同じです。名前を出さず、バレなければいいんです」
「確かに現実は飯塚さんがおっしゃる通りです。うちも普通の商売をいくつかやってます。それと同じ考えでいいんですか?」
「はい。『ユーチューブ』の世界も同じです。まずはチャンネルアカウントを登録します。未成年は親の同意が必要です。そして銀行口座です。確か今は…」
「はい。私たちは銀行口座も持てませんね」
「でもそれらをクリアすることは簡単ですよね」
「そうですね」
「それならば後は『絶対にバレないこと』です。それさえ徹底すればかなり面白いアイデアだと僕は思います。正直、その発想はなかったですし、『ユーチューブ』の世界は新しいもの、斬新なものが受けます。そのアイデアはものすごく斬新であり、誰もやってないですので。皆さんなら相当過激な『もの』が撮れると思いますし、需要は確実にあると思います」
そこから三人は熱心に話し込む。酒も進むがアイデアも進む。そこは底辺を自称する『ユーチューバー』の飯塚もいろいろとアイデアを提案する。それらを熱心に住友はメモに取る。住友には「何が面白く、受ける」かは理解出来ないがとにかく飯塚のアイデアを漏らさないよう書く。そして最後に飯塚が言う。
「正直なところ、僕は皆さんに成功して欲しいです。皆さんは『反社』なんでしょうが、健司からよく聞いてます。皆さんは今どきの半グレのような悪党ではありません。今では少なくなった『任侠』と言いますか。昔気質の堅気さんを第一に考えて動かれる方々だと。今は常識となっている『オレオレ詐欺』なども許さないとはすごいと思います。そんな皆さんを『反社』と呼ぶのは…」
飯塚の言葉を住友が遮る。
「いえ、飯塚さん。それは買いかぶりです。うちらは最低な人間です。それを自覚してないと自分らは終わりです」
「そんな…。僕こそ、大したお力にはなれませんが。こんな僕の力でよかったらいつでも頼ってください」
「ありがたく。今日は本当にありがとうございました。とても勉強になりました。じゃあ、自分はこの辺で失礼します。おい、この後は任せる。飯塚さんをしっかりと接待するんやで。ツレやし、わしがおらん方が気兼ねなく飲めるやろ」
そういって立ち上がりながら財布から万札を数枚取り出し、住友は京山に手渡す。
「いえ、そんな」
「すいません。ごちそうになります」
京山と飯塚が立ち上がって住友に頭を下げる。
「ええからええから。あ、あと、肝心なことを忘れてた。飯塚さんの動画を後でわしのラインに送っといてくれ」
「はい。分かりました」
「飯塚さん。それでは自分はここで失礼します。今後とも健司をよろしくお願いします」
「いえ、こちらこそ。今後もお力になれることがありましたら何でも言ってください」
「ありがとうございます」
住友は店の店主に片手をあげながら軽く頭を下げ、店を出る。
(なるほどなあ。これはかなり面白い話になるかもなあ)
酔い覚ましを兼ねて夜の街を歩く住友。タバコを取り出そうと思ったが『歩きタバコ』はご法度であることを思い出しそのままタバコを我慢して歩いて帰路についた。
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