航海
五月には入って、6月の練習試合まで、あと1か月を切った。それまでに、もっと肉体的のも精神的にも強くならないといけない。
去年、タツミ中学との練習試合で、対戦した赤羽光代には勝ちたい。彼女に勝てば、11月の地区大会でも勝てる可能性がある。
練習からしても、心と呼吸を乱さずに集中しなくてはならない。
『相沢、相手に気持ちで負けてはいけないよ』美幸先輩が言ってくれた言葉が頭に響いた。これはいつ言われたのだろう。
「愛梨、集中して」
「ごめん、瑠衣」
今は、瑠衣との組み手争いの練習に集中しなくはいけない。気持ちが乱れていることは分かっていた。
昨日、兄の亜蘭と美幸先輩が一緒にいたところを見てしまってから、そのことが気になって、練習に身が入らず、集中できていない。2人は楽しそうに話してる姿を、彩美と学校の帰りに見てしまった。
どういう関係なのかを聞くことができなかった。家で過ごす亜蘭はいつもと変わらない態度で生活をするので、詮索できない。また、今日も美幸先輩も何も変わった様子はない。
部活帰り際、「相沢、お前は柔道で勝ちたいと思ったことはないのか?」と鮎川先生に声をかけられた。
常に、誰かに勝ちたいと思っていた。
「6月のタツミ中学との練習試合で、ある程度の成果を出せよ」愛梨の返事を待つこともなく、先生は去って行った。
「お疲れ様、頑張りなよ」美幸先輩の声が聞こえた。「お疲れ様です」それだけしか返すことができなかった。
亜蘭とはどんな関係ですかって、美幸先輩に言いたい言葉が喉まできていた。そして、家に帰れば、兄の亜蘭がいる。聞きたいけど、聞けない。
鮎川先生の言葉も気になるが、美幸先輩のことも気になってしまっている。
「お疲れ、どうした!?」
前から彩美が歩いて来た。
「ううん、別に」
「亜蘭先輩のこと?」
彩美の言葉か胸に刺さる。
「もうー」
「ごめん、ごめん。気にしてもしかたないこともあるって」
彩美は笑ってはいるけど、ありがたい言葉だ。
気にはなるが、他人を気にしている余裕もないのかもしれない。6月で結果を出さないと、もしかすると、11月の大会に出れないのかもしれない。
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