夜は優しく僕を刺す。


僕は夜が好きだ。真っ暗な夜に輝く星や月が好きだ。人に作られたライトの点滅も夜になると別のものの様に見える。飽きることの無い景色。


今日のことを思い出して笑ったり泣いたりする。明日のことを考えて想像し、妄想する。夜の時間はなんだか本当に色んなことを考えてしまう。そんな時間に意味があるのかと聞かれたら、無いかもしれない。夜は不思議だ。夜になるだけでこんなにも僕の思考は巡り、悩み、つらくなる。



今日も夜は僕の元へくる。夜は僕のことが嫌いらしい。悪戯をするように大好きな時間から僕の思考を闇へと誘う。



闇へと誘われた僕の思考は逆らうことも出来ず、ただ真っ暗な世界へ沈む。そしてふかくふかく下まで落ちて暫くそこから動くことは無い。否、動く事が出来ない、というのが正しい。金縛りにあったのかと勘違いしてしまうほどに動かない僕の思考。

…夜は好きだけれど、闇はあんまり好きじゃない。


辛いことばかり思い出して、遂には泣いてしまった。やっぱり、闇から這い上がることは出来そうにない。……みんなの元にもこの闇は来ているのだろうか。僕のように、夜になると辛く苦しい気持ちの海に沈んでいるのだろうか。もし、そうなら這い上がり方を教えて欲しい。

僕をここから、たすけてほしい。


夜はいつまでも僕を呑むんだ。いくら僕が抜け出そうと、足掻こうと、構わず深い闇の底へ僕を沈めるんだ。頭を押えられて、僕はもう逃げることを辞めてしまった。


夜は闇と繋がっている。夜は綺麗でずっと飽きない景色を見せてくれるけどそこ奥には真っ暗で前も牛も何も見えない闇が広がっている。ひとたび呑まれれば出るのは容易ではない。だから、僕はもう諦めた。ごめんよ、こんなにも夜が、苦しかったなんて、知らなかったんだ。



最後に、僕が大好きだった夜は大嫌いだった僕のことをナイフで優しく刺して笑ってくれた。

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